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後日譚:⑤暁 ※

◇_______フィン 村での任務を終え、ふたりで王都へ戻った。 「……あいつが村からこっちに帰って来る前に、絶対、この家の鍵を変えておくからな」 そう言ってハロルドが真顔で宣言し、本当に鍵を新しくしていた。 飄々と現れるあの王が、もうこの家に勝手に入ってくることはないようだ。 「ふふっ。陛下、ちょっと可哀想かも」 「いや、甘すぎたんだよ俺たち。やっと二人きりの時間が戻ってきたってのに、また茶々入れられてたまるかっての」 フィンがソファに座ると、ハロルドはその隣にどかっと腰を下ろし、腕を回して引き寄せた。強引なのに、どこか甘やかすような抱き方だった。 王都に戻っても、魔素や守素に関する調査報告の提出や、医療関連の申請書類、行政との手続きなど、やるべきことは山ほどある。 けれど、なんとかそれらを片付けて、ようやく今日からふたりで休暇に入ることができた。 「……腹減ったか? 何か作る?」 コツンと額を重ねられる。フィンは微笑んで、答えの代わりにハロルドの頬に手を添え、音を立ててキスをした。 「……こら、飯が先だろ?」 「ふふ…ご飯は…リンゴで十分じゃない?」 キスの合間に、フィンはハロルドの首に腕を回し、ぴたりとその胸に身を寄せる。 「……ねえ、ハロルド」 「ん?」 「……はやく、あなたが欲しい」 言葉にした瞬間、ハロルドの目がわずかに見開かれて、すぐに深い熱が宿る。次の瞬間、体がふわりと浮き上がり、抱き上げられていた。 「……フィン、今の言葉、後悔すんなよ?」 「ふふ……しないよ。いっぱい、甘やかして? 時間はたくさんあるんだし」 見慣れたはずの寝室なのに、ハロルドの熱に包まれるたび、知らない場所へ迷い込んでいくような感覚があった。 シーツの上で、フィンはそっとハロルドのシャツの裾を引き寄せ、指先でその腹筋をなぞる。力強さの奥にある柔らかい温もりを触れるたび、確かに感じる。 「久しぶりなのに……そんなに煽ると、酷い目に遭うぞ?」 低く囁かれた声に、フィンはわざと口元をゆるめ、くすっと笑った。 「どんな目に……?」 唇をそっと近づけ、挑発するように囁く。 ハロルドはその唇をすぐには奪わず、鼻先が触れるほどの距離で笑った。 「全部、俺で満たされて……明日、歩けなくなるくらいかな」 掠れた声が耳をかすめ、息が詰まる。熱を帯びた視線に絡め取られ、フィンの胸がふるりと震えた。 「ふふ……だったら、ちゃんと教えてよ。最後まで」 ハロルドの唇が、ゆっくりと首筋を這う。 その熱が、フィンの背筋にじわりと火を灯すようだった。 「はぁっ…ああ……」 濡れた声が上がる。喉もとを甘く噛まれ、フィンは小さく息を呑む。指先がシャツのボタンを一つずつ外していくたびに、体の奥がざわめいた。 「……いいのか? 最後までって……フィンが言ったんだからな?」 耳元で囁かれたその声に、フィンの背筋がかすかに震える。指先で肌をなぞられるたびに、熱がじわじわと上がっていく。 「……っ、やさしくなんてしないで。ちゃんと…欲しがってよ…」 そう呟いたのに、唇は震えていた。期待を含む本音を隠す気なんて、もうなかった。 「じゃあ、教えてやるよ。俺に欲しがられるってどういうことか。君のその、可愛い声が掠れるまで、ちゃんと体に叩き込んでやる」 「……っ、はぁ、んんっ、」 噛みつかれるようなキスをされる。ハロルドの愛撫ひとつひとつが熱を孕み、フィンの身体を灼くように伝わっていく。 シーツがしっとりと乱れていく中、ハロルドの手はもう躊躇なく胸元へと伸びていた。指先で輪を描くようになぞられ、優しいのに、その動きはどこか執拗で、まるで覚えこませるようだった。 「……そこ……っ…だ、め…」 息が漏れるたびに、ハロルドはその反応を逃さず、くすりと笑う。 「やっぱ、ここ好きなんだな。……前より、もっと敏感になってないか?」 親指の腹で、乳首をゆっくり押し込むように撫でてくる。片方を指先で弄りながら、もう片方へ口づけが落とされる。 「っ……ハロルド……」 フィンの声に熱が滲む。体が跳ねるたび、ハロルドの舌が、唇が、確かめるように形をなぞり、軽く噛んでくる。 「可愛い声で、もっと呼んでくれ。……ここ、何度触っても飽きねぇな」 名残惜しそうに吸いついて、ようやく口を離すと、少し腫れた跡にそっと息を吹きかける。ひやりとした刺激に、フィンはまた体を震わせた。 「んんっ、もうそんなとこ…ばっかり……」 「俺がどんだけ、フィンのここ好きか……ちゃんとわかれよ」 唇が胸元を離れ、ハロルドの手が、今度はゆっくりと腰骨のあたりへと滑っていった。指先になぞられるたび、ぞくりとする感覚が走る。 「……こっちも、もっと甘やかさないとな」 耳元で低く囁かれ、フィンの喉が小さく鳴った。その声にすでに逆らえない自分がいるのを、もう隠しきれなかった。 「……ん、っ……」 敏感な場所に指が沈む。浅いところ、ゆっくり、ゆっくりと円を描くように撫でられるたび、足先に熱が広がっていった。 「ここ……好きだろ? 深く入れるたびに、すぐ反応して……」 指先がすべるようにくぼみをなぞり、奥深くに入ってくる。もう片方の手が背中から回り込むようにして腰を包む。 フィンはそのまま、ハロルドに脚を大きく開かれた。 「んん…っ、、じれったい……」 「はは、そうか……でも、もうちょっとゆっくりな…」 ハロルドの指がフィンの孔の奥を撫でるたびに、奥の方からじわじわと熱がこみ上げてくる。ぐちゅぐちゅという泡音が部屋に響き渡っている。 奥深くをゴツゴツとした指で擦られるたび、腰が跳ねるように反応してしまう。 「はぁぁっ…もっと…んんっ、、」 もう、何度も頂点に届きそうになっているのに、肝心なところは触れずに、するりと避けていく。……わかってる。わざとハロルドはそうしていること。 フィンは上体を少し起こして、ハロルドを見つめた。睨んだつもりだったけれど、その目は熱に潤んでいたかもしれない。 「……ねえ、まだ焦らすの……?」 かすれた声でそう訴えた瞬間、ハロルドの目が細くなった。まるで、その言葉を待ち構えていたかのように、唇の端がゆるく吊り上がる。 「ん? 焦らしてなんかないさ。フィンがあんまり可愛いもんだから、つい堪能してただけ」 「……うそ。絶対、焦らしてる……」 フィンが抗議するように眉を寄せても、ハロルドの手はゆるやかに、でも確実に快楽の縁をなぞり続けていた。 フィンはゆっくりと身を起こし、ハロルドの胸に手を添えると、その身体をベッドに倒した。 そしてためらいなく、彼の腰に跨る。 「もう、許さないよ…焦らされるって酷いことなんだからね。ほら、ふふ…こんなにして……自分だって、早くしたいくせに…」 上からハロルドを見下ろす光景は新鮮だ。 フィンはそのまま、ハロルドの腰元に顔を寄せた。 熱を帯びた香りがふっと鼻をくすぐる。その匂いに、フィンの体は静かに疼き始める。 「お、おい……ちょ、ちょっと待てってば」 突然のフィンの大胆さに、さすがのハロルドも動揺を隠しきれない。普段は余裕たっぷりの彼が戸惑う様子に、フィンは、くすりと笑った。 「ふふ、堪え性ないな…こんなにダラダラと…流れさせて…だけど…やっぱり……本当におっきい…」 見慣れているはずなのに、いつ見ても、理不尽なサイズだと思う。 ハロルドの、無遠慮に存在を主張するそれに指を添えると、熱がにじむように濃密な滴が伝った。 フィンは大きく口を開けてそれを頬張る。舌に触れた瞬間、かすかな苦味とともに、熱を帯びた重みが脈打った。口内にじんわりと広がる熱に、思わず喉の奥がきゅっと反応する。 「……っ、お、おい…フィン」 喉の奥に届くほどの熱を、その形に沿って丁寧になぞる。全てを咥え込むには大きすぎて難しい。その滾る熱と硬に唇を窄めて、焦らすように音を立てて吸い上げる。 ぐちゅぐちゅ…と音を立てて、舌先でわずかに強弱をつけると、ハロルドの体が大きく震えた。 「はっ、は…っ、ヤバ……おい…」 ハロルドはわずかに腰を引く。それでもフィンは止まらない。熱を孕んだ瞳で上目に見上げ、ただまっすぐにハロルドを射抜いていた。 「はっ……くそ……もう限界だろ……」 荒い呼吸を押し殺すように言葉を漏らす。それでもフィンは動きを止めなかった。熱を帯びた視線のまま、頬が赤く染まり、潤んだ瞳が揺れる。 自分でもどうしてこんなに夢中になってしまうのか分からない。ただ、やめられない……その仕草は、無意識に愛を求めていた。 「ああ……イキそう…フィン」 ハロルドのその言葉を聞いた瞬間、フィンはそっと口を離した。大きく張っている先端からは、ドクドクと音を立てるように熱が流れ出ている。硬く反り返ったそれは、小さく震えるように脈を打っていた。 フィンは、そのままハロルドの上に乗り上げた。腰を動かしながら体勢を変える。滾る熱を背後に受けるようにして、自らの奥へとそっと押し当てた。 「あなたが欲しいって……言ったじゃない、だから…っ、ああっ、やあああっ……っ、」 ゆっくり孔の奥深くに入れている途中、腰を掴まれ、下から大きくハロルドは腰を回した。 「ああ、言ってたな……俺が悪かった。なら……ちゃんと味わえ。動けなくなるまで、俺に溺れさせてやる」 次の瞬間、容赦のない深い衝撃が、下から一気に突き上げてきた。フィンの体は思わず跳ね、声にならない息が喉の奥で震える。 「や、やああっ、んんっはああんっ、」 肌と肌がぶつかる音が響く。腰を押さえつけられ、初めから容赦ない突き上げを繰り返される。 「……っ、くっ…は、は、」 「ハ…ロル…ド……、っ、ああっ、、」 身動きできないまま、深く強く、打ちつけられる。 「フィン…気持ちいいんだろ? こんなふうにされて…もっと奥まで欲しいか…」 「……んんっ、もっと、……あなたのが、当たると…だめ、気持ちよすぎて……ああ、」 快感に押されるように背を反らし、しなやかに震える身体がハロルドを誘う。 奥を求めているのが、触れずとも伝わってしまう。下から突き上げられるたび、フィンの身体はびくびくと跳ね、熱に揺さぶられて背中が反る。 「あっ、や、そんな……っ、強いの……っ」 奥を擦る衝撃に、甘い声が零れた。脚が震え、抗えない快感に息もまともにできない。 「なぁ、フィン……声、我慢すんな。気持ちいいなら、ちゃんと聞かせてくれ」 肌と肌がぶつかる音が響く。 さらに激しく下から打ち上げられ、フィンは声を押し殺せずに喉を震わせた。 「っ……ハロルド、待って……ッ」 けれど腰を捕まれ逃げられず、熱が深くまで食い込んで、理性ごと溶かされていく。 「ああ…もう限界…奥の奥まで、俺の全部、入れていいか」 ハロルドの低く囁く声が耳朶をくすぐ、腰を強く奥まで捩じ込んでくる。 そのままフィンの奥を、下から突き上げるように激しく打ちつけている。そのたび、フィンの細い喉からかすれた声が零れた。 「……やっ、ん……っ、そこ……だめ……っ」 喉の奥から漏れる声も、指先の震えも、もうどうにも制御できない。 繋がるたび、フィンの身体が甘く跳ねる。背中はのけぞり、脚は痙攣するようにハロルドに絡みついた。 「奥、ちゃんと感じてるな……可愛い。俺の形、全部、覚えさせてやるよ」 ハロルドの声が熱を帯び、さらに深く、荒く、打ちつけるように重なっていく。 フィンの視界が滲む。触れられていない場所まで、熱く蕩けていくようで、もう何も考えられない。 「……あっ……あぁ、ハロルド……っ、だめ、もう……」 「もっと、奥まで愛してやるよ…俺の全部、受け止めて……フィン」 名前を呼ばれただけで、心まで攫われる気がした。ふたりの身体が擦れ合うたび、熱が高まり、甘さが深まり、溶けあうように、境界が曖昧になっていく。 「…っ、くっ、……ダメだ…イキそう。一回イカせてくれ、出すぞ…」 底から衝き上げる動きに、フィンの身体は跳ね、奥の奥が擦れて痺れたように甘く痛い。 「あ……ああん、もう、いく…いっ…はぁ」 「………っ…く、っ、は、は」 背中を反らし、爪がシーツに食い込んだ時、ハロルドに強く腰を奥まで押し付けられた。びくりと震えた瞬間、内に込められた熱が外まで溢れ出していた。 火照った粘膜に触れ、じんわりと甘い痺れと滴る熱を残している。快感が深く、全身を飲み込んでいく。 「……全部、受け取ってくれたな」 ハロルドはフィンの脚の隙間に目を落とし、唇をわずかに緩めた。 「まだ……抜かないでよ」 「抜かねぇよ……このままだ」 低く囁かれた声が、耳の奥をくすぐる。 ふたりの身体は深く繋がったまま、微かに震えながらも、離れようとはしなかった。 熱を孕んだままの奥に、ハロルドのものがまだ脈打っている。そのたびに、フィンの背筋がわずかに跳ね、肩を震わせる。 肌と肌が汗で絡まり、鼓動が互いの胸を打ち合う。もう一度、奥に小さく揺らされるたび、フィンは息を詰める。 「……まだ、終わらないで」 囁きのような声で、そう呟いた。 「終わらせないよ。朝になっても離さない……何度でも抱いてやる」 低く甘い声で、ハロルドはフィンの耳元に唇を寄せた。ふたりだけの熱はまだ、冷めることを知らない。 ◇_______ハロルド 朝。 と呼ぶには、あまりにも遅すぎる時間。 カーテンの隙間から差し込む光は、容赦なく眩しい。今日も、外はきっと焼けつくような暑さだ。 枕元には、寝癖すら愛しく思える人がひとり。寝ぼけたままの指先が、いつものようにハロルドの身体を辿っていく。 脇腹、腕、肩口。 戦場で刻まれた古傷を、迷いもなくなぞる。まるで、自分の掌に描かれた地図をたどるように。 「そろそろ起きるか。……朝はとうに過ぎて、もうすぐ昼だぞ」 「………ん、」 目は覚めているようだったが、返事はかすかに漏れるだけ。それでも、指先だけは迷いなく動いている。 まるで、眠りの中でさえ、自分の手で確かめているかのようだった。そして、触れる先がすべるように移ろい、その指は背中で止まった。 「……ここが……いちばん好き」 掠れた声とともに、そっと触れたのはハロルドの背中に刻まれた最も深い傷痕。かつてフィンの手で縫い合わせた、その古傷に指先がゆっくりと辿る。 ハロルドはためらいもなく、フィンの身体を腕ごと引き寄せた。抱き締める力がわずかに強まる。 「そこか……いちばん大きい傷だからな」 「……全部……私の記録でもあるから」 小さな呟きとともに、フィンは胸に頬を寄せ、その温もりを確かめるように目を閉じている。 「………傷だらけ」 まだ眠たげな声で、フィンが呟く。指先が、背中の線をゆっくりなぞりながら、ひとつひとつ確かめるように動く。 「でも、この傷のおかげで……俺はフィンのそばにいられた」 「……よく言う……傷のおかげなんて」 「だってよ、手当てしてもらってる間、俺はフィンのこと独り占めできるんだぜ」 「……ばか。無茶ばかりしたくせに」 そう口ではたしなめながらも、フィンの指は離れない。むしろ、背中から肩口へと、名残惜しそうにすべっていく。その軌跡が火種のように肌に残り、ハロルドの奥までくすぐった。 「……そんな撫で方するなよ」 くぐもった声でそう言い、ハロルドは笑みを含ませながらフィンを抱き寄せた。腕の中で感じる体温が、いつまでも離したくなくなるほど愛おしい。 「起きて何か食べようぜ……起きないと、また襲っちゃうぞ? いいのか?」 「……出た。自称、絶倫。また自分で言うつもり?」 「だって、事実だろ? まだまだ止まれそうにないし? ほら、少し腹に入れて、続きはそのあとだ」 「続きって……身体、動かないってば。お腹すいた…けど、もうちょっと、このままでいたい…」 フィンは困ったように眉を寄せ、そう言う。そんな可愛い仕草を見た瞬間、ハロルドは思わず吹き出した。けれどそのまま、ふと視線を宙へと向けた。 こんなふうに、昼近くまでベッドで過ごせている。それだけで、あの長い戦いが終わったのだと実感する。 かつては毎日が、切り開いては命を繋ぐだけの繰り返しだった。 脳裏をよぎるのは、あの白い応急テント。 血の匂いが染みついた風、夜闇にまぎれる低く押し殺した呻き声。 誰が倒れても、どれだけ血が流れても、フィンは顔色ひとつ変えず、黙々と命を繋ぎ続けていた。 戦う場所は違っても、あのとき確かに、同じ戦場にいた。それぞれの使命を抱えながら、共に戦っていた。 あの頃から惚れている。たぶん自分でも気づくより、ずっとずっと前からだと思う。 「なに? 真剣な顔して」 腕の中から顔を上げたフィンは、もうすっかり目を覚ましていて、じっとこちらを見ていた。 「ああ……いつからフィンのこと、好きだったかなって考えてた」 「ふーん……そういえば、あなたって、いつも『口説くからな』って、そればっかり言ってたよね」 「……で、ちゃんと口説けたと思う?」 「さあ? どうだろうね」 からかうような口調に、ハロルドは、ふっと笑う。 「そっか。……もっと頑張るか」 そう言って、そっと手を伸ばすと、指先でフィンの頬に触れる。顔を寄せて、ゆっくりと唇を重ねる。 唇が離れても、互いの息が絡まり、また引き寄せられる。フィンの背に回した手を緩めることなく、ベッドの上で何度も深く、熱を重ねる。 口づけのたびに、身体の奥まで火が灯るようで、互いに離れる理由が見つからない。 けれど、ハロルドは唇を離し、額を軽く合わせた。 「……このままじゃ、昼も夜も食いっぱぐれるぞ」 「……やだ。まだ……もう少し……」 小さく首を振り、胸元に顔を埋めてくる。 「朝ごはんはさ……リンゴでいいよ……」 「もう昼だぞ。それに、この数日ほとんどリンゴばっかだったろ」 ハロルドは苦笑しながら、髪を軽く撫でる。 「ちゃんと飯にしよう。倒れられたら困るからな」 そう言って、ハロルドはフィンの肩口を軽く噛むと、ベッド脇に置いてあったバスローブを手に取った。 「ほら、これ着て。こっちの腕」 袖を通すのを渋るフィンの手を、ハロルドが半ば無理やり引き寄せる。 「……んー……」 不満げに口を尖らせながらも、結局ふたりで小さく笑い合い、フィンにバスローブを羽織らせる。袖を通し終えると、ハロルドはその腰をぐいと引き寄せた。 「よし、確保」 そう言うが早いか、ひょいとフィンを軽々と抱き上げた。 「うわっ…ちょっと、自分で歩けるって!」 「ダメ。ぐずってた奴は運ばれる決まりだ。ちゃんとつかまってろ」 「うっ……もう……」 肩をすくめた拍子に、頬まで真っ赤になるフィン。その温もりを腕に感じながら、ハロルドは機嫌よく歩を進める。 廊下を抜け、キッチンに向かう途中、すれ違う窓から差し込む光がフィンの横顔を柔らかく照らした。あまりの愛おしさに、ハロルドはつい頬に唇を触れさせる。 やがて、ふたりの足はキッチンへ。抱きかかえられたままのフィンをそっと床に下ろすと、温かな香りが鼻をくすぐった。 「スープ……?ふふ…またいつの間にか仕込んでたんだ」 鍋の湯気がふわりと立ち上る中、ハロルドが蓋を少し持ち上げ、火を入れる。隣にはフィンがいて、何気なく肩を寄せ、腰のあたりがぴたりと触れ合う。 ふたりとも、わずかな動きでバスローブがずれてしまいそうな距離と温度をまとい、さっきまでの熱を引きずっている。 「はは、そう。スープは、手っ取り早く栄養が取れるんだろ?」 ハロルドが鍋に視線を落としている間に、フィンはスプーンを手に取り、スープをひとすくい。ふっと息を吹きかけて口に運ぶと、目を細めて小さく呟いた。 「……美味しい」 「ほら、皿持ってこいよ。食べようぜ」 「野菜、すっごく甘いよ? ……あーん」 からかうようでいて、どこか柔らかな声音。唇の前に差し出されたスプーンから、湯気がふわりと二人の間を漂う。 そのとき、フィンが何気なく伸びをした拍子に、バスローブの胸元がふっと開き、白い肌がのぞいた。視線を奪われたハロルドの喉が、無意識に鳴る。 「……おい、それ、また誘ってんのか?」 「え?違うってば…これから食事でしょ?」 「無理だろ。俺のどストライクが横でそんなことしてたら、誘われてるって思うだろ」 言うが早いか、ハロルドはフィンの腰をぐいと引き寄せ、耳元で低く笑う。 「……もう我慢、きかなくなってきた」 「……ちょっと、え……っ! うそ……」 腰を押しつけると、滾る熱と硬さに気づいたフィンは、息を詰め、頬まで熱を帯びていく。それを見たハロルドは、さらに下腹に熱をため、硬さを増していった。低く掠れた声が、耳元をかすめる。 「……このままじゃ、食事どころじゃなくなるぞ?」 低く囁きながら、ハロルドは片手で迷いなくフィンの腰を引き寄せ、もう片方の手で鍋の火をぱちりと止めた。温もりごと抱きしめ、そのまま首筋に唇を落とす。ひとつ、ふたつ、そして何度も。 背中を撫でる手が、次第に尻を包み込むように動き、指先が形を確かめる。 「ふふ……堪え性ないね。すぐ熱くして、硬くして……ほんと、困った人……んっ」 柔らかな背を抱き込み、深く唇を重ねる。舌が絡み、喉奥まで熱を送り込むたび、腕の中の体温が上がっていく。 「……とまんねぇな。フィンの身体、ほんと…たまんねぇ」 硬く熱を帯びたものをフィンに押し付けると、布越しにドクンと脈を打った。それに身じろぎするフィンの反応を確かめ、ハロルドはさらに抱き寄せる腕の力を強めた。 「……っは……んん、あぁ」 フィンの息がわずかに乱れ、白い頬がみるみるうちに赤く染まっていく。 腰のくびれをなぞり上げ、布越しに背筋をたどると、指先がその温かさを拾っていく。 やがて手のひらは下へと滑り、尻をすくい上げるように包み込んだ。軽く力を入れると、腕の中のフィンがわずかに息を詰め、顔を赤くするのが見えた。 「なあ……今から、また注いでいいか? アレ、入れるとフィンが綺麗になってくっていうし……」 「ばか……また守素のこと言ってんの?」 「はは、俺の守素、フィンの中にぶちまけたい。なあ……ダメか?」 耳元に低く笑いを混ぜた声と、首筋に落ちる熱い吐息。 「ふふ……もう……いいけど……食事は?」 「やっぱり、またリンゴ生活に戻るか」 __ガチャリ。 唐突に扉が開き、のんきな国王陛下が顔を出した。 「よー、元気かー! ……おっと? え、なにこれ、今回はかなり取り込み中?」 甘さも熱も、空気という空気が音を立てて崩壊する。抱き寄せていた腕がぴたりと止まり、ふたりは同時に硬直した。 脳裏で、今までの熱と鼓動が一瞬で引っ込んでいくのが分かる。 「……お前、どうやって入ってきた」 低く抑えた声に、ハロルドの眉間がきゅっと寄る。 「へ? 玄関だけど? いや、鍵が開いてたからさ〜」 その間延びした答えを聞くや、ハロルドは短く舌打ちした。苛立ちを隠そうともせず、肩越しに視線を投げる。 隣では、フィンが「わ、わ、ちょっと着替え…!」と大慌てでバスローブを直していた。 そんなふたりの反応を見た途端、カイゼルは腹を抱えて笑い出した。 「はははっ! 悪い悪い、申し訳ない。いや〜、これは今日一日ニヤけそうだな」 笑いながら、さらに余計なひと言を放つ。 「にしても……先生、ほんっと艶っぽいねぇ。途中で止めちゃって悪かったな? いや、その顔と耳の赤さ……守素のせいか? それとも、ハロルドの腕前か?」 「っ……!へ、へ、陛下!あの、その……」 耳まで真っ赤になったフィンは、慌ててバスローブの胸元を押さえ、視線を泳がせる。 「……お前、下品なこと言うなっ!」 低く一喝したハロルドは、そのままフィンの肩をぐっと抱き寄せる。背中越しに伝わる体温が、やけに熱く感じられた。 ハロルドの牽制を受けても、カイゼルは悪びれるどころか、にやりと目を細めた。 「うんうん、バスローブ姿で抱き寄せて……休暇満喫してるね〜」 「……黙れ。本当に鍵が開いてたのか? 鍵は変えたはずだ」 「えっ? 鍵、変えちゃったの? だけど、マジで開いてたぞ。本当だって。物騒だな〜、気をつけろよ? ま、こんな甘い現場、普通は誰も突撃しないか。怖くて」 わざとらしく肩をすくめ、さらにニヤつく。 「……お前、本当に殴るぞ」 低く唸りながら、俺はフィンをぐっと抱き寄せた。肩越しに伝わる体温ごと、この空気を守るように。 耳まで赤くして視線を逸らすフィンが、可哀想なくらい狼狽えている。……それでも、どうしようもなく愛おしい。 「はいはい……本当、ごめんね〜。いやマジでハロルド、お前、鼻の下伸びすぎだって。怖いくらいだぞ? それでも続ける? ま、続けてもいいけどさ…写真でも撮ってやろうか、記念に」 軽口を叩きながら、カイゼルは話題を切り替える。 「……で、本題。実はさ、またちょっと……頼みたいことがあって来たんだよ」 わざと意味深に区切る声が、残り火のような熱を揺らしたまま部屋に落ちた。 「は!?」 「えっ……!?」 ハロルドとフィンの声が同時に重なる。 「いやいやいや、もう無理だろ。お前の頼みなんて、もうたくさんだ。それに俺らは、休暇中だ」 ハロルドが眉をひそめる横で、フィンも慌てて首を振った。 「そ、そうですよ! いまはゆっくりする時間なんですから……!」 それでもカイゼルは、どこ吹く風といった笑みを浮かべて言う。 「また問題が起きててさ。ちょっと……頼みたいことがあるんだよね」 ため息をついた俺と、呆然とするフィン。 けれど、不思議と胸の奥は、温かさに包まれていた。 「いや、マジで。あのさ先生、聞いてくれる? ちょっと……頼みたいことがあるんだよね」 「え、あ……はい……」 反射的に返事をしたフィンは、はっとハロルドを見上げている。 「フィン、聞くな。巻き込まれるぞ」 低く釘を刺す俺に、カイゼルはますます楽しそうに口角を上げる。 「なんだよ〜、そんなこと言うなって。俺ら戦友じゃん? 今さら切り捨てとかないだろ」 思いがけない言葉に、俺とフィンは顔を見合わせた。次の瞬間、ふっと肩の力が抜けて、心から笑ってしまう。 その笑い声に、カイゼルもますます得意げに笑みを深めた。 また、ろくでもない相談に違いない。 だけど、不思議と胸の奥が温かくなる。 「えーっとさ……」 カイゼルが口を開く。 その間延びした声が、妙に賑やかで、確かに日常の音に聞こえた。 __きっと、これが、新しい俺たちの日常なんだろう。 end

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