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第1話
例えば、磨き上げられた食器に美食が盛られているのを見た時。
例えば、色とりどりの糸で刺繍された上質なクッションに触れた時。
例えば、上等な生地の礼服に頭を下げた時。
そんな時、ふと思い出す。かつて自分がいた世界、目にした光景、舌に転がした味。
〝迎えに来るから。ちゃんと迎えに来るから。だから、ここで待っていてね〟
そう言った母の判断を昔は信じたけれど、大人になって考えれば、半分は正解で、半分は間違いだったのではないかと思う。
たとえ母の判断が、今の己を生かしているのだとわかっていても。
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