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第2話

 ここには自由と富がある。そう夢を持って人々が訪れるディーディアはまるで神話に登場しそうなほど美しく神秘的な国だ。乾いた風の吹く砂漠もあれば、真っ青な海もある。建物は民家でさえ美しく洗練されていて、道行く人は皆、刺繍の施された涼しげな服を着ていた。市場には山と積まれた大地の恵や伝統の織物などが並び、人々は穏やかな日々に笑い声をあげている。そんなディーディアを治めるのは数千年前より続いているとされるナシーム王家だ。彼らは王都にある広大な白亜の宮殿に住み、ディーディアの法と政治を司っている。  王家の者はみな勇猛果敢だが恐ろしい独裁者などではなく、あまり触れ合う機会こそないものの民は王家の人々を慕っていた。だからこそ今の他国民が多く移住してくる中でも平和で実り豊かな国が出来上がったと言えるだろう。そんな彼らが住まう宮殿の一角で、望月 凪は銀のトレーを持ちながら歩いていた。

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