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第39話
「かしこまりました」
贋金の調査という仕事がありながら子犬を連れ込む考えは理解できないが、既にサーミフとウォルメン閣下の間で取り決められたものを一介の使用人があれこれと口出す権利はない。凪の役目はサーミフが表で賓客のお見送りを大々的に行っている間に、ウォルメン閣下を見送ることだ。後はヒバリの為に用意された部屋に案内すればいい。それ以外は不要。
「じゃぁヒバリ、何かあったらすぐに連絡してきなさい。もちろん、声が聞きたくなったという理由でも良いよ。ポリーヌ、ロール、ヒバリを頼むよ」
ロールを抱いたヒバリごと抱き寄せて、彼の額に口づけを贈ったウォルメン閣下は用意されていた黒塗りの車に乗り込んだ。ヒバリはその姿をジッと見つめている。そして走り出した車が完全に見えなくなった時、彼は何を思ったのかトントンと自らの首元を指で突いた。その行為が何であるのか不思議に思い、凪は内心首を傾げる。しかしヒバリが向きなおり、視線を向けてきたことによって凪は慌てて思考を切り替えた。今はどうでも良い事を気にしている場合ではない。さっさとヒバリを部屋に案内して、サーミフの元へ戻らなければ。
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