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第38話

 サーミフは情報収集やウォルメン閣下との繋ぎ役としてヒバリを望んだが、そんなことが本当に務まるのかと疑問に思うほど、ヒバリという人間は言葉を話さなかった。誰かがヒバリに声をかけても隣にいるウォルメン閣下がそれに応え、閣下が何かを話しかければ、ヒバリは頷くか手をトントンと叩くばかりで声を出そうとしない。もしや声が出ないのだろうかと危惧した凪であったが、それは閣下が帰国する際に優しく響いた。 「ロール」  初めて聞く、少し低めの優しい声がヒバリの唇から零れ落ちる。母国から呼び寄せたのだろう閣下が抱いたゴールデンレトリバーの子犬を撫でながら、もう一度あの声で「ロール」と呼んだ。 「凪、だったか。ヒバリのお付きとしてメイドのポリーヌとこの子を置いていくから顔を覚えておいてくれ。サーミフには既に許可をもらっているから」  ロールと呼ばれた子犬をヒバリに渡したウォルメン閣下が凪に向き直る。閣下の少し後ろに控えていた女性がスカートを少し摘まんで礼をした。彼女がポリーヌだろう。

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