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第37話

 多くの子供が子供らしく遊びまわる年頃でさえ、勉強勉強の毎日。けれどこの立場であるからこそ自分達は周りよりも豪華で立派な屋敷に住み、掃除や料理といった生活のすべてを使用人がしてくれ、美食を口にし、絹を纏えるのだと幼い頃から母に言われ続けた凪は、どれだけ辛くとも自分が恵まれているのだということを知っていた。けれど、それが時代の流れとでもいうのだろうか、凪の家を含む兎堵の貴族たちはとてつもない勢いで衰退していった。貴族だけではない、兎堵の国民すべてが貧しくなっていったのだ。  華やかな世界は徐々に色あせていった。月に何度も開かれていたお茶会も無くなり、誰誰が没落しただの、突然一家全員で姿を消しただのという話が毎日のように聞こえてくる。それでも凪の家は父や異母兄が走り回っていたから住む場所を失うことはなかった。だが、あの日、あの夜にすべてが終わった。 〝凪、凪おきて。早く仕度をして逃げるのよ〟  そう揺り起こしてきた、母の言葉で。

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