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第36話
ヒバリが身につける物は、自分が選び与えたものだけ。あの泰然自若とした様子を崩さなかったウォルメン閣下にそのような執着心があるのかと凪は内心で驚くが、先程の様子を見るにそれも間違っていないのかもしれないと思いなおす。
そんな、ウォルメン閣下の愛する小鳥が閣下の側を離れてこの宮殿に滞在するだなんて。凪は考えただけでもため息が零れ落ちて止まらない。
どうか極力ヒバリと関わることがありませんようにと胸の内で願う。
しかしその願いも虚しく、凪はヒバリと共に贋金の調査を行うようサーミフに命じられたのだった。
白亜の宮殿。
皮肉なことに、かつて凪が暮らしていた屋敷は近隣の人々からそう呼ばれていた。
まるで物語のお姫様が暮らしていそうな美しい建物に、整えられた広大な庭園。屋敷でお茶会が催される時は、子供であった凪も上等な衣装を着て、胸元には宝石をつけていた。歳の離れた異母兄に手を引かれて、大人の真似事のように夫人たちに挨拶をする。そんなことが頻繁であったから、勉強の他にも言葉遣いやテーブルマナー、ダンスに詩と、数えきれないほどの教養を身につけさせられた。
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