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第35話
「侍従長、少しお訊きしても良いですか?」
忘れ物や落とし物が無いかを確認していた侍従長が、凪の声に顔を上げる。視線で先を促した。
「殿下は贈り物として宝飾品をご用意なさっておいででしたよね? なぜ閣下には宝飾品ではなく絨毯を? 何か、此度の件に関係あるのでしょうか?」
絨毯も人気ではあるが、ディーディアが一番に誇るのは宝石だ。だからこそサーミフは今回の式典に来席した深く交友のある賓客に対して宝石をあしらった装飾品を贈り物として用意していた。公的な身分としては一貴族であるが、この式典で招待されたどの賓客よりもウォルメン閣下の地位は高い。一番上等なものを贈ってしかるべき相手に、なぜ絨毯なのだろうと首を傾げる凪に、侍従長は小さく首を横に振った。
「今日の装いを見てもわかるように、ウォルメン閣下は必要な時こそ宝飾品を身につけられるが、必要でなければ一切身につけられない。つまりご自身を飾る物にあまりご興味がないのだ。それに、ウォルメン閣下をお喜ばせしたいのであれば、ヒバリ様に何かを贈るのが一番。だがヒバリ様に身につけるような宝飾品を贈れば、たちまちウォルメン閣下のご不興をかう。もしも今回、殿下が宝飾品の類を贈られていたら、ウォルメン閣下は先程のお言葉を無しにしてすぐにヒバリ様を連れ帰っておられたことだろう。だから、宝飾品を贈らないことと、此度の件に関しては何も関りがない。そう気にする必要はないだろう」
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