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第34話
「私も閣下に贈り物を用意していたのをすっかり忘れていました。我が国伝統の模様を織った絨毯です。大きいですから、明日にでも侍従に運ばせましょう。どうぞお納めください」
「おや、それはありがたい。ぜひ使わせてもらうとしよう」
楽しみにしている、と言って今度こそ閣下はヒバリを伴って部屋を出た。パタン、と閉じられた扉に、知らず張り詰めていた緊張が解けて深く息を吐く。その様子にサーミフはクスリと笑った。先程までのよそ行きの笑顔ではなく、見慣れた笑みだ。
「遅くまでご苦労だったな。まだ起きておられるだろうから、私は陛下の元へ行ってくる。後は任せたぞ」
この件はあまり公にしたくない、と先程言ったように、サーミフはできる限り人目を避けたいようだ。その意図を理解し、凪と侍従長は揃って頭を垂れる。スルリと衣擦れの音が遠ざかり、彼が扉の向こうに姿を消すまで二人は頭を下げ続けた。パタン、と扉が閉められてようやく頭を上げる。
「さて、今から他の者を呼びだすのも手間だ。ある程度片付けてしまおう。それが終わればお前はもう下がって良い」
侍従長の言葉に頷き、凪はテーブルに置かれたグラスに手を伸ばした。ふと、この空間に二人きりという事実を思い出し、侍従長へ視線を向ける。
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