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第44話

「そういえば、夫人はヒバリ殿と〝縁〟がある方でしたね」  サーミフの言葉に含みを感じたのは、凪の考えすぎだろうか。居心地の悪さを感じていれば、突然サーミフが凪に視線を向けた。 「応じるかはご本人次第ですが、ヒバリ殿の部屋を伺うのはご自由に。部屋の場所は彼が知っています。ですが今回、ヒバリ殿がご滞在を伸ばされたのはごく個人的なこと。ご本人もウォルメン閣下がいない場で目立つことは好まれないでしょう。夫人も、あまりヒバリ殿のことは他言されぬようお願いします」  他言せぬようにと言うのであれば、そもそも母の耳にすら入れてほしくなかったというのが凪の本音だ。しかし国王を非難するようなことを口にできるはずもなく、まさかの案内役まで申し付けられて凪はツバキと共に部屋を出ざるを得なかった。何度もサーミフに礼を言って退室したツバキは、周りの目を気にしてか凪に柔らかな眼差しを向けることはあっても声をかけることは無い。血の繋がった親子であるというのに居心地の悪い空気を纏いながら歩く時間は地獄のようだった。しかし、ヒバリの部屋に着いてもその地獄から解放されるわけではない。地獄から別の地獄に移行しただけだ。

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