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第45話

 本当はこのまま踵を返して帰りたかったが、一介の使用人が命じられたこともせずに国王の夫人を置いて去るなど出来ようはずもなく、凪は嫌々ながらにヒバリの部屋の前に立ち、重厚な扉をノックする。しばらくすると小さく扉が開き、ポリーヌが顔を見せた。 「どちら様で……、あら? あなたは……」  凪の顔を見た瞬間、ポリーヌは言葉を途切れさせて首を傾げる。一瞬だけ凪の後ろに視線を向けた彼女は、凪に何用かと無言で問いかけた。 「おくつろぎのところ申し訳ございません。国王陛下の第三夫人・ツバキ様がヒバリ様にお会いしたいと」  凪の言葉に合わせてツバキが軽く微笑む。その姿にポリーヌはスカートを摘まんで美しく礼をした。そしてチラと視線を室内に向け、小さく頷く。 「どうぞお入りください」  ポリーヌが大きく扉を開けて中へ促す。凪とツバキが室内に入ると、パタンと扉が閉められた。

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