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第46話

 ヒバリが過ごしやすいようにだろう、凪が案内した時とは少しだけ様子の違う室内で、ヒバリはソファに座りながらロールと戯れていた。笑顔でじゃれつくロールに、ヒバリも淡い笑みを浮かべている。その様子をどこか冷めた目で凪が見つめていると、彼はロールを絨毯の上に降ろして立ち上がり、凪とツバキの元へやって来た。 「夫人、ご機嫌麗しゅう」  ツバキに頭を下げるヒバリの所作は美しい。流石はウォルメン閣下の側にいるだけはあると言えるだろう。けれど凪の目にはどこか機械じみた、人間らしさを感じない動きに見えた。しかし母にはそう映らなかったのだろう、涙で瞳を潤ませながら、ヒバリよりも深く深く頭を下げる。 「突然押しかけましたる無礼をお許しください。――ヒバリ様、私を、覚えていらっしゃいますか?」  顔を上げ、さほど身長の変わらない彼に真っ直ぐとツバキは視線を向ける。縋るような視線を受けながら、しかしヒバリはピクリとも表情を動かすことは無かった。凪も表情豊かではないが、ヒバリはその上をいくらしい。

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