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第47話

「覚えています。約十一年前に、王都でお会いしました」  なんと簡素な言葉だろうと凪は思わず視線を床に降ろす。  その〝お会いした〟ことで、凪と母の人生は取り返しようもないほどに変わってしまったというのに。  けれど同じ記憶を持つはずの母は凪とは正反対に、喜びで顔を綻ばせた。 「よかった。此度の式典に来られると聞いて楽しみにしていたのですが、立場ゆえにどうしてもお会いすることができず、まだご滞在してくださると聞いて居ても立っても居られず、こうして押しかけてしまいました。――本当に、お会いしたかったのです」  複数の妻を娶ることが許されているディーディアであるが、式典などの公式行事には正妃のみが参加する決まりとなっている。いまでこそ夫人も片手のほどの数となっているが、一昔前は何十人と存在していたそうだ。同じように王子達の正妃も夫人もとなれば、会場が夫人たちで埋め尽くされてしまう。そんな理由から正妃以外は例外なく不参加となり、今日まで守られているため、式典でツバキがヒバリと顔を合わせることは叶わなかったのだ。そのことに少しだけ安堵していた息子の気持ちを、当然ながら母が知るはずもない。

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