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第48話
「あの時、ヒバリ様と出会うことができたからこそ、私と息子は生きることができました。飢えに苦しむことも、雨風に追われることもなく、過ぎるほどに与えられて日々を生きております。今日は眠ってしまったので連れてくることはできませんでしたが、娘を授かることもできました」
着の身着のままというわけではなかったが、子供を抱えた職も家もない女が生活するにはあまりに足りない荷物だけを持ってディーディアに逃げてきた。あの時ヒバリに出会えなければ、自分達は住む家もなく飢えに苦しみ、病を患って早々に死ぬか、暴漢に襲われ、惨めな死を迎えただろう。少なくともツバキはそう信じていた。
「ヒバリ様に与えていただいた恩を、一瞬たりとも忘れたことはございません。今の私があるのは、息子があるのは、ヒバリ様のおかげです。なんとご恩返しをすればよいか」
そっとヒバリの手をとって自らの額に近づけながら膝をついたツバキに、凪はギョッと目を見開いた。
国王の夫人ともあろう者が、他者の、それも王族どころか本人は何の爵位も持たない者に膝を折るだなんて。
あまりのことに凪はヒバリにキッと鋭い視線を向けた。憎悪さえも滲んでいるそれに、しかしヒバリの表情は動かない。唇が僅かに動いたようには見えたが、結局声が放たれることはなかった。そんなヒバリの代わりに、控えていたポリーヌがそっとツバキに近づく。
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