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第49話
「夫人、どうぞお立ちください。そのようなことを主人は望まれませんし、どうすれば良いのかと困惑しておりますから」
跪くことをヒバリは望まない。そう言われてツバキはポリーヌに支えられながら立ち上がった。足元に寄ってきた子犬を抱き上げるヒバリに視線を向ける。
「……ヒバリ様。ヒバリ様に得られぬものなどないと理解はしております。ですが、私に……、私にできることはございませんか?」
できる事ならば何でも。そう告げるツバキにヒバリは静かな視線を向けた。ほんの少し子犬を抱く腕に力が籠ったように見えたのは、凪の気のせいだろうか。
「何も。夫人に何かをしていただけるほどの恩を与えたとも思っていませんし、仮に与えていたとしても、それは私の功績ゆえではなく、ウォルメン閣下の功績あってのこと。どうしても何か礼をと言われるのでしたら、私ではなく閣下に」
なんとも淡々とした言葉だと凪ですら思ったのだ。直接向けられたツバキはその応えにどこか落ち込んだような気配を見せる。強い恩を感じているツバキからすれば、何もしないのでは到底納得できないのだろう。あの時、ツバキが願い、その手を差し伸べたのはウォルメン閣下ではなく、目の前にいるヒバリだったのだから。
尚もツバキはヒバリに言葉を重ねようと唇を開く。しかしその前に凪はそっとツバキの肩に触れた。
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