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第71話

 宣言通り、真っ先に服屋を目指したヒバリはほんの数分で店主と打ち解け、あれこれと話し込んでいた。常の無表情からは考えられないほどにコロコロと表情を変えるヒバリは少し幼く、そして随分な世間知らずに見えて庇護欲を駆り立てる。年若い店主もその一人なのだろう、ヒバリがちょっと眉を下げて困り顔をしただけで何でも相談に乗ると請け負い、この国での暮らし方を懇切丁寧に説明していた。 「ありがとう、お兄さん。知らない国に何の知識も無いまま来たからどうしようかと悩んでいたけど、お兄さんのような優しい人に出会えるなんて僕は幸運に恵まれているようだ」  お兄さん、と呼ぶ声はわざとらしくないのに、どこかほんのりと甘い。耳心地の良い声とはまさにこれだと言わんばかりだ。そしてどうしてか、その声には言葉のどこにも嘘など無い、本心だと思わせるだけのものも含まれていた。ヒバリがどこまで〝やろうと思ってやっている〟のか凪にはわからないが、それがわざとであろうと天然であろうと、随分な人たらしであることには違いない。

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