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第70話
「……ヒバリ様がどれほど嘘を得意としていらっしゃるかは知りませんが、私は使用人です。使用人が主の命令を勝手な判断で反故にすることはできません。策を変えないというのであればお供いたしますが、先に申し上げておきます。あなたの命も、私の命も、この国の命も、私は何一つ背負えませんし、背負う気もありません。護衛もいらぬというのであれば、あなたの命がどうなろうと私も、この国も、閣下の怒りを買うことなく安寧であると保証してくださいね」
そんな保証などできるはずもない。だからヒバリは引き返すか、あるいは凪に譲歩してくれるだろうと思っていた。しかし凪の予想に反して、ヒバリはあっさりと頷く。
「保障しましょう。必要であれば正式な書類にサインをしても構いません。私の命が失われることはありませんし、そのことで閣下が凪殿やディーディアに報復することもありませんから」
それは自分がどういう存在かヒバリが理解していないのか、それとも本当に何があろうとウォルメン閣下は許容するというのか。どちらであるか凪にわかろうはずもないが、ヒバリはスタスタと足を進めて行ってしまう。悩んでいる暇も無いのだと理解して、凪はひとつため息をつくと絶対にそれらを書面に残してほしいと念を押し、彼の後ろに従った。
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