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第73話
怪しまれないようにだろうか、服だけではなく日用品や食材を買いこんだヒバリは両手に紙袋を抱えたまま歩き出した。今日だけで知り合いになった人々が口々に声をかけ、それに愛想よく応えつつ歩みは止めない。どこまで行くのだろうかと凪が内心で首を傾げた時、フッ、とヒバリは溶けるように民家の角に姿を消した。急なそれに思考が追い付かず、凪は慌てて後を追いかける。どこに行った? と辺りをキョロキョロ見渡せば、民家の塀から白い腕がのぞき、おいでおいでと手招いていた。塀の向こうに姿を隠しているのだろうことは理解するが、それでも真白な腕だけがにょきりと生えて手招いている様子は少々恐怖を感じる。本当にこの腕はヒバリなのか? とほんの少しだけ警戒をして近づけば、そこには風よけのフードをつけたヒバリが立っていた。
「同じ格好で大っぴらに帰るわけにはいきませんから、少し姿を変えましょう」
そう言ってヒバリは内ポケットから大きな布を取り出すと、先程買った生活用品や衣服などを包み込んだ。上に果物がくるように包んであるため、一見すると布の中身はすべて果物や野菜に見えることだろう。次いで包むことなく残しておいた一枚の服を上から被るようにして着る。ディーディアの衣服はどれも大きくゆったりとした作りであるため、透ける素材でさえなければ下に別の服を着ていようと違和感はない。服自体もどこにでもあるような量産された柄であるため、それだけでヒバリを特定するのは難しいだろう。
凪でさえ手直しが必要なディーディアの服を、ヒバリは用意していた特殊なテープで手早く直していく。簡易的ではあるが、宮殿まで形が崩れなければ良いのだから問題はない。風よけのフードで顔の半分を隠し、衣服も整えたヒバリは、どこからどう見ても宮殿に物資を届けに来た商人にしか見えない。同じように凪もヒバリに渡された風よけのフードで顔の半分を隠し、二人は布に包んだ荷物をあたかも納品する商品であるかのように装って宮殿に帰ったのだった。
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