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第74話
「以上が今日の報告となります。多くの住民がヒバリ様にあれこれと話していましたが、私が聞いている限りでは、贋金に関わる明確な情報は無かったかと」
ワインを片手に寛ぐサーミフの前に立ちながら、凪は今日あったことの詳細を報告していた。詳細と言っても、凪は忘れっぽい性格であるため住民の言葉を正確に覚えているわけでもなければ洩れもあるだろう。しかしそれはサーミフとて承知していることだ。今のところ装いに不審なものは無いが、正確な詳細が必要と判断すればサーミフが凪の服になり装飾品なりに盗聴器でも仕掛けるに違いない。
自分が覚えている限りのことを脚色無しで報告した凪に、サーミフはひとつ頷いて傍らのトレーにワインを置いた。
「なるほど。思った以上にヒバリ殿は人々に溶け込むのが上手いようだ。この様子なら瞬く間に多くの情報がヒバリ殿の元へ自ら転がり込んでくるだろうな。そこに、贋金の件も含まれていれば良いのだが」
通貨の偽造は大罪。幼い子がお絵描きで描くのとは訳が違う。この国でなくても大罪なのだから、よほどの子供でない限りそれを行えばどうなるか知らぬ者はいないだろう。だからこそ、そう簡単に表には出てこないとサーミフも凪も覚悟はしている。しかしそう悠長に構えていられる要件ではない。
「それで? ナギはどうだったんだ?」
ツイと視線を向けられて、凪は首をかしげる。
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