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第75話
「どうだった、とは? 先程の報告以上のことは何もありません。そもそも私はそういったことに慣れているわけではありませんから、気づいたこともありませんし」
それを生業とするような者であれば、あるいは住民の声音一つで違和感を覚えるようなこともあったのかもしれないが、生憎と凪は平凡なただの使用人だ。人の嘘を見抜いたり隠し事を暴くようなことができるはずもない。
凪が〝できない〟ことをサーミフは侍従長の次に熟知しているだろう。だというのに何を言うのかと目を細めれば、目の前の彼はクスリクスリと笑った。
「安心しろ。お前に諜報の真似事など期待していない。私が聞きたいのはその他のことだ。……そうだな。例えば、ヒバリ殿と何か話した、とか」
贋金に関する以外のことを知りたいのだと言うサーミフに、凪は一瞬、スッと目を細める。
「特に何もございませんでしたよ。街を歩いている時でさえ、ヒバリ様は住民と話をしていましたし、私に話すことがあるとすれば、策は変えないだの護衛はつけないだの、あるいは着替えるといったような必要最低限のものだけです。ヒバリ様はどうか存じ上げませんが、私がヒバリ様と雑談するような人間ではないと殿下もご存知のはずでは?」
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