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第76話

 雑談が悪いと言っているわけではない。むしろ調査のためには多少なりとも他愛無い話をするべきなのだろう。しかし凪はヒバリのことが嫌いなのだ。仕事だからやるべき事はやるが、逆に言えば必要なければ一言だって話したくないのである。そんなことはサーミフも承知だろうに、何を言っているのかと胡乱気な顔をすれば、サーミフは堪えきれぬとばかりに小さく笑い声を零した。 「フッ……、そういえばそうだな」  そういうことだった。吐息に交じるようサーミフは呟く。それが聞こえていないわけではないが、凪は何も返さなかった。 「わかった。引き続き調査に努めてくれ。それから、これをヒバリ殿に。ご所望の調査報告書だ」  内密に持っていてほしいとサーミフは凪に分厚い紙束を渡した。ビッシリと文字の書かれた報告書に、このすべてに目を通すのは随分骨が折れそうだと小さくため息を零す。 「かしこまりました」  ずっしりと重みを伝えてくる紙束を抱え、凪は頭を垂れると部屋をあとにした。仕事を後回しにするのは好きではないし、忙しくしていると忘れてしまいそうな気もする。あまり会いたくはないが、今から届けに行く方が良いだろうと、凪はヒバリに与えられた部屋の方へと足を向けた。

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