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第77話

 人目につかぬよう慎重になりながらヒバリの部屋をノックする。するとすぐにポリーヌが扉を開き、凪の姿を見ると事情を察しているのか何を言うでもなく部屋の中へと促した。パタンと扉が閉まったのを確認して凪は奥へと視線を向ける。そこには先程の物とはまた違う、王宮に居てもなんら遜色のないディーディアの服を身につけたヒバリがロールと戯れていた。 「殿下のご命令でこちらをお持ちいたしました」  手に持った分厚い紙束をポリーヌに渡す。これで凪の役目は終わりだ。今日はもうヒバリも外へ出ないだろうから、凪は淡々といつもの仕事をこなせばよい。さっさと戻ろうと踵を返した時、奥から静かな声がかけられた。 「明日は夜に動きますと殿下にお伝えください」  その言葉に凪は振り返るが、ヒバリはロールを抱きしめ撫でるばかりで、それ以上を言うどころか凪に視線も寄越さなかった。それに凪はほんの少し目を細める。 「……かしこまりました」  絞り出すようにそれだけを告げて、凪は足早に部屋を出た。

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