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第78話

〝私の元で引き取りましょう〟  そう国王たる父に告げたのは自分だった。視線の先でジッと頑ななまでに床を見つめている子供が可哀想だったから、などというお優しい気持ちで言ったわけではなかった。あの時のサーミフは突然母親が再婚して自分は放り出されるかもしれないという運命に晒された子供を前に、ひどく冷めた目をしていたことだろう。しかし父は己の利害で、子供の母親は少なくとも息子が王宮に住まうことができるという安心で喜ぶことはあれど、サーミフの胸の内に気づくことは無かった。  突然父が妻の一人にすると言った女。異国の、充分に物事がわかる年齢の子供を連れた女だ。その時芽生えた感情を知れば、多くの者はサーミフを非難するかもしれない。だがサーミフは僅かたりとも自分が間違っているとは思わず、ゆえに後悔もしなかった。  サーミフは公平で優しい殿下だ。そうあり続けねばならない。  絶対に。

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