89 / 107

第89話

「ヒバリ殿が兎堵の者であってはいけない、と言っているように聞こえるが」  決してサーミフの考えが突飛なものではないということは、ヒバリが女装して紛れ込んだ一件で証明されている。だというのに真っ向から否定する凪は少々不自然だ。それでも凪は視線を逸らすことなくサーミフを見つめ、フッ、と笑った。 「兎堵の者は誇り高く恩義は忘れません。恩義の方はどうかわかりませんが、少なくともヒバリ様は誇り高い方ではない。例え兎堵の血が一滴流れていようと、あの方を形作るものは兎堵ではないのです」  それは何も形として証明することはできないものだった。凪の言い分は根拠のないものを押し通そうとしているに他ならない。その姿にフッ、とサーミフは吐息で笑った。 「そんなにもヒバリ殿が嫌いか?」  その問いかけに凪も微笑む。 「ええ、心の底から」  一部の乱れもないようサーミフの裾を整える凪に、主はもう一度フッと嗤った。

ともだちにシェアしよう!