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第88話
「まさか。ヒバリ様は違うのでは? 確かに体格は兎堵の者のように小柄ですが、あの方はずっとウォルメン閣下の側にいらっしゃいます。もしも兎堵と関係があったとしても、血を遡ればいるというだけで、ヒバリ様は生まれも育ちも兎堵ではないでしょう」
「いやに断言するではないか」
珍しい、とサーミフは凪に視線を向ける。その瞳を凪も真っ直ぐに見返した。
「あの方からは兎堵の者であるという何をも感じませんので」
ヒバリが兎堵の者と思われるのは見た目だけだ。兎堵独特の言葉や、ディーディア語を話していても出てしまうイントネーションの違いなどがヒバリからは一切感じられない。小さな仕草や、歩き方の癖ひとつとっても、ヒバリはウォルメン閣下と同じセランネ国のそれだ。
「だがヒバリ殿ほどの人間であれば、出自の全てを隠すことなど造作もないだろう」
「いいえ、案外人の癖というものは気をつけていても出てしまうものです」
癖が違うからと言って断言はできないというサーミフを、凪はキッパリと否定した。凪の言い分は単なる想像や妄想ではなく、実際にそうであるのだと。その断言にサーミフはほんの少し眉根を寄せる。
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