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第95話
「殿下の疑問はごもっとも。ですが、本当に報告以上のことはありません。もしかしたらヒバリ様は何かを掴んでいらっしゃるのかもしれませんが、私にはヒバリ様から言葉にして説明されない限りわかりません。私に諜報の才が無いことは殿下も理解していると先日仰ったではありませんか」
凪は本当にありのままを話しているに過ぎないのだ。何も無いというのに疑われてはたまらない。己に恥じるものなど何一つないと証明するかのように、凪は真っ直ぐにサーミフの瞳を見つめた。反らすこともしないその眼差しに、サーミフは小さく息をつく。
「……そうだったな。わかった。では引き続き頼む。どんな些細なことでも報告を」
凪の言い分に納得したのか、それとも諦めたのか。どちらとも取れる表情をしてサーミフは命じた。それに頭を垂れて了承する。仕事の続きをするからと凪は静かに退室し、室内にはサーミフと侍従長だけが残った。
「どう見る?」
果実水の入ったグラスを意味もなくクルクルと回しながら問いかけるサーミフに、侍従長は少し近づいて膝を折った。
「不思議なことばかりでなんとも。声が聞こえる範囲まで近づくことはできませんでしたので詳細は把握できませんでしたが、少なくとも凪の報告では抜けている時間が多過ぎます。元々凪は記憶力が良い方ではありませんが、前日のことをそうもすぐに忘れてしまうとは考えにくい。しかし凪が嘘をついているようにも見えませんでしたな」
そう、凪が何と言おうとその報告には抜けが多い。意図的に何かを報告していませんと言わんばかりだ。しかし凪の様子はいたって普通で、主人を欺いているようにも見えない。
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