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第178話

「お初にお目にかかります。望月 椿です。こちらは息子の凪。ヒバリ様にご挨拶を申し上げます」  洗練された動きで母が頭を垂れる。慌てて凪も頭を垂れた。その姿にヒバリもまた、静かに礼をする。 「初めまして望月夫人、凪殿。申し訳ございません、主人は今あのような状態でして」  ヒバリが側にいたところで取次は難しい。そう言うようにほんの少し瞼を伏せた彼の姿が凪には悲しかった。凪はヒバリに会いにきたのだ。決して閣下ではない。 「あの! ボクは」  勢い余って凪は無意識にヒバリのズボンを掴む。その様子に母は慌てたが、ヒバリは特に気にする様子もなく凪に視線を合わせるよう膝を折った。 「あの、ボクは……、ボクはヒバリさまにあいたくて……」 「私に?」  演技でもなんでもなく、本当にヒバリは驚いているようだった。そんな彼に凪はコクコクと必死に頷く。そしてポケットから〝満月〟を取り出すと、周りからは見えないよう両手で包み込んだ。そんなことをしたって凪の手はとても小さいから隠し切れるはずもないのだが、凪本人は必死に隠してヒバリの両手にそれを握らせた。そっと耳元に顔を寄せる。 「ヒバリさまに、まんげつをあげたかったのです」  そう言って凪はニコッと笑うと、母や周囲の者に気付かれる前にと残りの〝満月〟も素早くヒバリのポケットに入れた。幼子の突飛な行動にヒバリはほんの少し目を見開く。しかし次の瞬間にはフッ、と吐息のように微かな笑みをこぼした。そしてヒバリもまた、凪の耳に唇を寄せる。 「ありがとう、小さな秘密のお友達」  その声音は柔らかで、凪は嬉しくて嬉しくてたまらなかった。寂しそうにしていた彼に、ほんの少しでも何かをしてあげられたのだと。

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