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第248話

「……誘拐された人間はその恐ろしさや自らを守るために常ならば考えられないような思考になることがあると言いますが、そういったことではないのですか?」  あえて心を閉ざし無のようになったり、あるいは相手に恋をしたりすることもあるという。それは人間が心と身体を守るための防衛本能。しかし閣下が言っているのはそういうことではないのだろう、彼は静かに首を横に振った。 「あの子の場合は少々特殊でね。誘拐されたという事実よりも私が示したモノが無くなっているという事実の方が問題なんだ。あの首輪は他者が見れば従属や屈服の証かもしれないが、ヒバリにとっては絶対的な庇護の証でね。たとえ側にいなくとも、あの首輪があればヒバリは私の存在を思い出す。それが外されてしまったんだ。きっと封じ込められていたはずの不安や恐怖が押し寄せてきていることだろう。側に凪殿がいれば彼を守るために抗うだろうから、それを願うより他ないのが悔しいところではあるがね」  あの首輪はヒバリにとって一種の精神安定剤とでもいったところか。きっと閣下が盗聴器などをつけていると知っていて、それも含めてヒバリはあの首輪に安堵を覚えていたのだろう。自分がそんなプライバシーも何もない首輪をつけられたらと考えただけで息苦しくなるサーミフには、きっとヒバリの心を理解することはできない。

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