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貴方にだけは知られたくなかったのに3

「君は……どうして、」  まるで真稀の行く末のように暗い路地裏で。  微かに震える声で問われ、もうこの状況を誤魔化す術はなかった。  近付く靴音に、この場から逃げ出しそうになるが、そうしても何の解決にもならないことはわかっている。 「大学から君に病欠が多いと連絡を受けた」 「…………すみません」  病欠。  当然、本当の欠席理由を言うわけにはいかないから、学校の方には体の具合が悪いと連絡を入れている。  まったくの嘘というわけではない。医者に行っても病名はつかないだろうが、これは確かに遺伝性の疾患なのだ。  男性の精気がなければ生きていけない体。  飢餓感に蝕まれ、講義に集中できないどころか、他の生徒を襲ってしまいそうで、最近は大学に行けない日が増えていた。  自分ではどうにもならないこととはいえ、結局月瀬に迷惑をかけてしまったことが申し訳なくて、俯く。 「責めているわけではない。事情を聞かせて欲しい。……何故、こんなことをする前に相談してくれなかった」  責めていない、そう言いながらも、真稀を覗き込んだ視線は非難を含んだ険しいものだ。  これが褒められた行為ではないことくらいわかっている。  ……だけど必要だから。  自分もやりたくてやっているわけではないのに非難の視線を向けられて、酷く理不尽に感じ、同時に悲しくなった。  真稀だって、好きでこんな体質に生まれたわけではない。 「…………相談に乗って欲しいって言ったら、月瀬さんが俺の相手をしてくれるんですか?」  思わずこぼれた皮肉。 「何を言っているんだ、私は」  冗談が聞きたいんじゃないと、咎めるような口調にぐっと唇を噛む。 「とにかく戻ってきちんと話をしよう」 「っ……」  腕を掴まれて、近くなった男の体温が、唐突に頭を痺れさせた。  欲しい。  抗えない飢餓感。  駄目だ、と止める心の声を、生への渇望が、本能が、理性を凌駕した瞬間。  真稀の体は勝手に動き出す。  掴まれた手を振り払い、男をビルの外壁に押し付けた。 「っ千堂君……!?」 「……欲しい……」  熱に浮かされた自分の声は、遠く。  獲物を縛り付け、発情を促す瞳が赤く光れば、月瀬の体温が上昇したのを感じ、そのまま跪き、前をくつろげる。  欲しい。 「ッ…………」  息をのむ音。真稀は我知らず弧を描いた口を大きく開けて、取り出したものを口に含んだ。  まるで、何日も飢えに苦しんだ人間が、テーブルいっぱいに並ぶごちそうにありついたかのような、歓喜。  喉の奥まで咥え込み、音を立ててすすり上げて、早く、早く欲しい、と急き立てた。  卑猥な音と低く呻く声が闇に溶けると。  待ちわびた力が、身体中を満たしていく。 「ンく……は……美味し……」  真稀は、夢見心地で口の端からこぼれたものまで舐めとり、恍惚に目を細めた。  そして。 「…………っ…………ぁ…………」  見上げた先の、呆然とした表情の月瀬と目が合って。  ……真稀に唐突に正気が戻った。 「ごめん……なさい……」  他に、言えることは何もなくて。 「千……」 「ごめんなさい!」  その先を聞きたくないと、真稀はその場から逃げ出した。  消えてしまいたかった。  異形のこの業を、  ……貴方にだけは知られたくなかったのに。

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