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気付けた、けれど2

 これもまた母が言うところの『サキュバス』の能力なのか、あるいは霊やヒトならざるものの方が自分達に近い存在だからか。  小さい頃、真稀には幽霊や妖怪のような、ヒトではないものがたくさん見えていた。  友達と言えるほどの意思疎通があったかどうかはあまり覚えていない。ただ、ヒトの友達よりヒトではない友達の方が多かったと思う。  だがある日母親に見咎められ、「私達は自分の姿を消すことはできない以上、ヒトとして生きていくしかないの。だから、見えないお友達と遊ぶのはやめなさい」と諭されてからはそれに従い、見ないようにしているうちに彼らは姿を消していた。  後に、幼少期に空想の友達がいることはそれほど珍しいことではないと聞いて、そういうものだったのかもしれないと思うようにしていたのに。  目を凝らせば、所々にヒトではないものが見えるようになっている。  欲望の集う場所には、彼らもまた多く集まってくるのだ。  突然襲いかかってくるようなものはほとんどいないのでそう怖くはないが(歓楽街ではむしろ生きた人間の方が脅威だ)、大人になって色々なことがわかるようになってから見ると、流石に少し不気味だ。 「(いよいよ……ヒトじゃなくなってきたってこと……なのかな)」  お前がいるのはこちら側だろうと突き付けられているようで、背筋が冷える。  それとも、彼らのように不可視になってしまった方が楽だろうか、なんて思ってはみるけれど、理性を保てる保証はなくて、ヒトに仇為す存在にはなりたくない。  今更だろうか。  妖魔の討滅を掲げる組織にターゲットにされているのだから、自分はやはりもうヒトではないのかもしれない。  昏い自嘲が漏れると、不意に体の奥から湧き上がってくる熱に肩が震えた。  限界だ。  どれほど嫌でも早く精気を貰える誰かを見繕わないと、どうなってしまうかわからない。  それに、ぐすぐずしていると月瀬も帰宅してしまう。  「今日は遅くなるかもしれない」という連絡が入ったので、好機とばかりに出かけてきたが、真稀の方は外出の理由を思いつけずに、不在の旨の連絡はしていない。  今の状態で月瀬の顔を見てしまえば、もちろん元の木阿弥だろう。 「(好き嫌いを言ってる場合じゃないよな)」  しっかりしろ、と自分に活を入れる。  それなりにこういうことに慣れていそうな人間が見つかれば、真稀の持つ力で軽くその気にさせるだけで食事にはありつけるだろう。  これまでの経験で、その見分け方は大体わかっていた。  応じてくれる人は大体「暗い」のだ。  性格や表情ではない。何なら表面的には明るい、軽い調子なのだが、うまく言えないけれどもとにかくどこかが暗い。  真稀はその暗さに潜り込むようにして、声をかければいい。  生者以外のものを見ないようにしながら物色していると、声をかけられそうな相手はすぐに見つかった。  するりと近づくと「あの」と控えめに男の袖を引く。  振り返った男は、ちらりと赤みを帯びた真稀の目を見てすぐに「お小遣い?」といやらしく笑う。  自分で力まで使って誘惑しておいて何だが、生理的嫌悪感を覚えて胃の辺りがひやりとする。  だがそんな我儘も言っていられないと腹をくくって「あっちで……」と誘導しようと、 「真稀」  男に伸ばそうとしていた手首を、ぐっと掴まれる。  驚いて、だが視線を向けるよりも先に声で誰だかわかった。 「っつ、」 「何だお前」  その気になりかけていたところに水を差された男が、険をたっぷり含んだ視線を向けるが、受ける方は意にも介さない。 「この子の保護者だが」  警察を呼んでもいい、と懐に手を入れる月瀬を見て、男は「ふざけんなよ」と悪態をつきながら去っていった。  掴まれた腕と、掴んでいる男を交互に見、真稀は混乱したまま呆然と聞いた。 「月瀬さん、どうして……」 「どうして?それは、私の台詞では?」 「っ……」  怒っている。  怒りの気配と鋭い眼差しに竦んでしまった。  「君がこの場所にいる理由の説明を必要としているのは、私だ。戻ってきちんと話し合いを」  強引に連れ戻されそうになり、真稀はぐっと足に力を入れて抵抗する。  こんな時なのに、怒らせた、嫌われてしまったのではと怖くて、……それなのに掴む手の熱さが、正気をさらいそうで。  本当にこんな自分が嫌になる。  もう、同じことを繰り返したくない。  真稀は衝動的に叫んだ。 「お、俺はやっぱり……月瀬さんと一緒に住むことは、できないです……!」

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