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第1話
第1話 突然の告白
昼下がりのキャンパスは、春の風がやわらかく吹き抜けていた。
中庭に面したカフェテラスの前で、俺――富岡一樹は同級生に呼び止められていた。
「富岡くん、あの……前から好きで」
真剣な眼差しに、俺は面倒くささが先に立つ。
「……あー、ごめん。そういうの、いいや」
返事は簡潔。表情も特に変えない。
同級生は肩を落とし、小さく「そっか」と呟いて去っていった。
周囲の空気がわずかに張り詰めていたのを感じながら、俺はさっさと歩き出す。
だが、背後から勢いよく呼び止められた。
「富岡先輩!」
振り向くと、見覚えのない男子が立っていた。金茶の髪が陽にきらめき、健康的な笑顔が眩しい。
「……あんた、誰?」
「藤岡瑛太、二年です! 先輩のこと、ずっと見てました」
「……は?」
初対面に近い男が、いきなり何を――と思う間もなく、彼は一歩近づいて言った。
「好きです! 付き合ってください!」
人通りのある道で、まるでドラマのワンシーンみたいに直球の告白。
俺は完全に固まった。
「……無理」
そう告げようとした瞬間、瑛太はにこっと笑って言葉を被せてくる。
「じゃあ、好きになるまで待ちます!」
勢いだけじゃなく、まっすぐで迷いのない瞳。
なんだこいつ……面倒くさいけど、少しだけ悪くない。
そう思ってしまった自分に、俺は気づかないふりをした。
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