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第2話

第2話 距離ゼロの後輩  翌朝。  講義まで時間があった俺――富岡一樹は、中庭のベンチでコーヒーを飲みながらぼーっとしていた。  春の日差しはやわらかく、風も気持ちいい。こういう時間は静かに過ごすに限る。 「……あ、いた!」  声と同時に、俺のすぐ横に誰かが腰を下ろす。  間髪入れずに漂うシャンプーの匂い。横を見ると――昨日の犬みたいな後輩、藤岡瑛太。 「……近い」 「え、そうですか?」 「そうだよ」 「だって寒くないですか? くっついたほうが暖かいですよ」  当然のように肩が触れる距離まで寄ってくる。  なんで俺、朝っぱらからこんな至近距離で後輩に体温分けられてんだ。 「……別に寒くねえし」 「じゃあ僕があったかいってことで」  にこっと笑う瑛太。朝から眩しすぎて目が疲れる。 ――  午前の講義が終わると、廊下で瑛太が待ち構えていた。 「先輩、お昼行きましょう!」  俺の腕を自然につかんで歩き出す。 「離せ」 「はい」……と言いつつ離さない。  すれ違った友人がニヤニヤしながら「え、一樹、彼氏できた?」と茶化す。 「違う」 「未来のです」即答。 「……お前な」 ――  昼食後、カフェに寄ると、瑛太が頼んだラテが間違ってブラックで出てきた。 「あれ? 甘いの頼んだのに……」  見てられなくて、俺は自分のラテを押し出す。 「ほら、これ飲め」 「え、でも」 「俺は別にどっちでもいい」  瑛太は一瞬驚いたあと、ゆっくり笑顔を深めた。 「……先輩って優しいですよね」  まっすぐ見られて、なぜか胸が一瞬だけざわつく。何だ、この感じ。 ――  夕方、学内の出口まで一緒に歩く。 「じゃあまた明日も会いに来ます!」 「頼んでない」 「頼まれてないけど行きます!」  そう言って手を振る瑛太を見送りながら、俺はため息をついた。  ……面倒くさい。  でも、不思議と、嫌じゃない。 ⸻

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