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第3話

第3話 揺れる日常  朝のキャンパス前。  講義までまだ二十分ほどあった俺――富岡一樹は、コンビニで買ったコーヒーを片手に、ぼんやり歩いていた。 「先輩!」  勢いよく呼び止められ、振り返れば――やっぱり藤岡瑛太。  昨日も会ったし、一昨日も……いや、たぶん初めて会ってから毎日だ。 「……お前、またかよ」 「はい! 今日も会いに来ました!」 「ストーカーか」 「ストーカーじゃなくて恋人候補です」 「……うるせ」  呆れつつも、なぜかそのまま並んで歩いてしまう自分に少しイラッとする。 ⸻  午前の講義が終わったあと、教室を出たところで女子後輩に呼び止められた。 「富岡先輩、今度ランチ行きませんか?」  ふいの誘いに返事を考える間もなく、横から瑛太がにゅっと顔を出す。 「すみません、先輩は僕と約束してます!」 「……は?」 「してない」 「でも、今から行きますよね?」 「行かねえ……いや、押すな押すな」  瑛太に半ば引きずられるように、結局そのまま学食へ。  女子後輩は「そっか……」と去っていき、瑛太は満足げに笑っていた。 「先輩って、他の人と仲良くするとこ、見たくないんですよね」 「お前な……」 ⸻  昼食後、カフェで休憩していると、俺が抱えていた資料が床に落ちた。 「あ、先輩!」  即座に瑛太が拾い上げてくれる。 「こういうの、すぐ言ってくださいよ。なんでも一人でやろうとするの、ちょっと寂しいですよ」  軽い口調なのに、不意に胸の奥に引っかかる言葉だった。  ……寂しい、か。 ⸻  夕方、キャンパスの出口まで一緒に歩く。 「じゃあ、明日も来ますね!」 「頼んでない」 「頼まれてなくても来ます!」  笑顔で手を振る瑛太に、なぜか無意識に声が出た。 「……風邪ひくなよ」  言った瞬間、自分で「は?」と固まる。  瑛太は嬉しそうに「はい!」と返事して去っていった。  胸の奥が、ほんの少しだけ落ち着かない。  ……なんだ、この感じ。 ⸻

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