13 / 18
第13話 やや18禁です
「おい、これ」
水野によって下着ごとズボンが膝まで下ろされてしまい、流生の下腹部が露わになる。
声を上げてしまったのは、濡れた下着が一気に引き下げられた摩擦のせいだ。
貞操帯の中で頭を擡げている性器の先端は濡れていて、後ろも同じ様な感覚がある。外気に触れている事でさえ、刺激的だった。
水野の呆れる様な溜息が心に響き、無意識に肩が窄まり鼻の奥がツンと痛み始める。
顔を上げる事なんて出来るはずも無く、水野に何を言われるのかと唇を噛んだ。
「流生のとこ、どうなってんだよ。これ、お前の趣味ってわけじゃねーんだろ?」
好きで装着していないと説明する必要も無かった事だけは、不幸中の幸いだった。
けれど、水野の前で下半身を晒しているこの状況が辛い事には変わりなく、情けなさも加わって視界がじんわりと滲んでくると、鼻を啜る。
「ぉ、おい、泣くなよ? 俺は、ただ、流生の事が心配で」
少しだけ優しく聞こえる水野の声色で、余計に胸が熱くなる。泣きそうだった。
でも、涙が零れる、そう思った瞬間に感じたのは、頬を伝う感触でも無く、身体の奥底から湧き上がる様な欲で、膝が震え始める。
呼吸が荒くなって、前のめりになる身体を制御できずにいると水野に抱き止められた。
「はっ……、ぁ、い、嫌だ、あぁっ」
全身が粟立つ感覚。これから自分の身に何が起きるかを十分に理解している分、鼓動の高鳴りの後にやってくる痛みに震える。
水野の肩口に唇を押し付けると、逞しい腕が強く抱き締めてくれた。
フェロモンを香水で中和しているとはいえ、水野はアルファだ。身体が触れ合っている部分から伝わる熱が、高い気がした。
アルファはオメガのフェロモンにとても敏感だというし、発情している流生とこの距離にいる水野も、きっと欲を抑えている。
「ごめ、っ、なさい」
謝罪が口から突いて出てしまう程度には反省しているのに、水野が自分に対して欲情しているのかもと考えると嬉しかった。
そんな思考になっているせいで、性器が膨らみ貞操帯に絞められる。その苦痛に顔を歪め、小さく呻くと水野に声を掛けられた。
「これ、外せないのか?」
水野がアルファだと知った今、外せないわけでは無い。けれど、問題はその外し方だ。
どう答えるのが最善なのかと思案してみるけれど、そんな余裕も無かった。
「僕、には無理。……、ぁ、アルファ以外、外せない。はぁ…っ」
とにかく痛みから解放されたい。その一心から震え声で返すと、神妙な面持ちの水野に顔を覗き込まれる。
「……なら、俺が外してやる。どうしたら良い?」
熱の籠った瞳が真っ直ぐに見つめてくる。
水野の形の良い唇がいつも以上に魅力的で、思わず生唾を呑んでしまうが、直ぐ我に返って視線を外した。
「アルファの……、唾液を」
「唾液? 唾液をどうすんだよ?」
脳内で説明文は浮かんでいるものの、それを口にしようとすると口籠ってしまう。そんな事を繰り返していると、水野の苛立った様な溜息が耳に届き、白状する事を決めた。
「唾液を、貞操帯、全体に……」
「はぁ⁉ マジか。これ付けさせてる奴、変態すぎんだろ‼」
水野の当然の反応を目の当たりにし、流生の強張る口元から苦笑いが洩れた。
僕だってそう思うよ。そう言いたかったけれど、口を開けば恍惚とした吐息が零れてしまいそうで怖くて、唇を結ぶ。
少しだけ戸惑い気味の水野が自身の掌を舌で舐め、唾液に塗れた手で貞操帯を包む。やんわりと握られている熱が伝わってきて、反射的に腰を引いてしまうが外れなかった。
――その理由は明白で、直接唾液を付けていないからだ。
腑に落ちない表情をした水野に見上げられると、その図が厭らしすぎて喉が鳴った。
「……っ、あぁ、ん、はっ」
痛みには違いないのに、口から零れた声は欲と熱を孕んでいて赤面する。
「直接、直接じゃないと、だめ」
欲が完全に勝っていたと思う。水野の口内に含まれる感触を想像してしまい、早く外して欲しいと気が逸っていた。
多少は躊躇われるかと覚悟はしていたけれど、当の水野はすでに唇を開き貞操帯に舌を這わせようとしていた。
「あっ、……、はぁ、ん、あぁっ」
金属性の縁の隙間から、生温かくて濡れた水野の舌が性器に触れる。熱い吐息がかかる度に興奮してしまい腰が揺れると、水野の手が流生の尻を撫で、心地良く揉んでくる。
痛いのに気持ちが良くて、堪えきれずに声が裏返った瞬間、舌の感触が離れた。
荒くなっていた呼吸を整え、滲む視界で水野を見下ろす。
水野の手は貞操帯と、流生が吐き出した白濁に塗れていた。
途端に羞恥心が溢れてきて流生が眉を寄せてしまうが、水野は恍惚としながらも熱の籠った瞳で見つめてくる。
キスして欲しい……。
そう口にしたわけでも無いのに、水野の唇は流生の望み通りに近づいて来る。目を閉じると目尻に溜まっていた涙が頬を伝い、唇に柔らかい人肌が触れた。
触れただけなのに甘い痺れが全身を巡り、離れていく唇を薄目で追いかけると、水野の視線と濃厚に絡み合う。
流生の頬に水野の唇が触れ、リップ音が部屋に響いた。
熱に浮かされたかの様に見える水野は、何を思っているのか。流生のフェロモンに酔って我を失っているだけなのかも知れない。
これは、慎一郎君の意志じゃないんだ。
そう思う反面、流されてしまいたいと思う自分も居て、この先にあるだろう快楽に期待して鼓動が高鳴る。
水野の息遣いが流生を煽るようで、もうどうにでもなれと目を閉じ、唇を薄く開きかけた所で二人同時に目を見開いた。
――スマートフォンの着信音だった。
急に現実に戻された。夢でも見ていたかのような感覚で、瞳が忙しなく揺れる。半ば錯乱状態だ。
「……ぁ、洗ってくる」
目を伏せたままの水野が浴室へと小走りに消えて行き、下着とズボンを履き直すと鳴り止まないスマートフォンを手に取った。
「……、もしもし」
『竹内です。……流生君? 何か、ありましたか?』
「い、いえ、大丈夫です」
心の準備は出来ていたはずなのに、通話が始まった途端に声が裏返ってしまい、竹内の不審そうな声に密かに苦笑いを浮かべる。
竹内からの話は流生の予想通り、社長の部屋に向かう時間の件だった。そもそもアルファの水野に貞操帯を外して貰ったのだから、行く理由なんて無い。
少しだけ強気になってしまうのは、貞操帯を外して貰って、射精をしたせいだろうか。
「はい、五分後に、……わかりました」
でも、断れるわけも無かった。
通話が終了すると、少しだけ冴えている気がする頭で流生のスペースに向かって着替えを手早く済ませる。
社長が好きな膝丈のタイトスカートに、白いシャツ。ドレッサーに向かってリップを塗り直していると、水野に名前を呼ばれた。
あんな失態を晒した後なのにまだ羞恥心は残っていて、何か言いたそうな顔をした水野から視線を外す。
「……、それ、ありがとう」
貞操帯を受け取り、水野に背を向けると自分で装着して、下着を上げた。
何をしているんだろうという虚無感で眉が自然と下がり、スカートの裾を力無く直していると視界に水野の足が映り込む。
「ド変態野郎のとこに行くんだろ? なんとかしてやるから、……そんな顔、するなよ」
水野の顔を見上げていた自分はよっぽど酷い顔をしていたのか、作りでは無い、素の水野の優しい声に胸が温かくなるのを感じた。
ともだちにシェアしよう!

