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第一話 自慢の幼馴染①
俺は最上碧音 、高校三年生。
趣味はゲーム、特技は特になし。ボランティア部の副部長で、生徒会では書記を務めている。それに次男だ。
何をとっても実に「微妙」なのである。部長にはなれないし、華々しい生徒会長を務めるわけでもない。次男という点でも、何から何まであと一歩――凄くないわけではないけれど、何かが足りない。
クラスの中で目立つわけでもないし、とりわけ成績がいいわけでもない。それが俺だった。
そんな俺の自慢が、幼馴染の望月伊織 だ。伊織は成績だってトップクラスだし、バスケ部の部長。決して派手なわけではないが、容姿端麗な伊織はとても目立つ存在だ。おまけに文武両道。
濡れ羽色の髪は光に当たると黒々と輝き、スッと切れ長な瞳は彼の端正な顔立ちをより引き立たせて見せる。背が高くてまるでモデルのような伊織は、女子生徒の憧れの的だ。
伊織の姿を一目見ようと、バスケ部が活動しているときは体育館に女子生徒が大勢訪れ、伊織がシュートを決めた瞬間、黄色い声援に包まれる。
それに伊織は面倒見もよくて、ポヤーッとしている俺の世話を幼い頃から焼いてくれた。そんな頼りになる存在でもある。
伊織は俺の自慢だったし、俺は小さい頃から伊織のことが好きだった。
そして、伊織も俺のことが好きなんじゃないかって、淡い期待を抱いたりもしている。
「あ、碧音。もうすぐ部活が終わるから待ってて」
「大丈夫だよ。ここで待ってるから」
「うん、ごめんね」
毎日体育館まで伊織を迎えに行って、一緒に帰る。そしてまた翌日一緒に登校する。それが俺たちの「当たり前」になっていた。
いくら待たされたって構わない。だって、こうやって伊織を見ていられることが俺には幸せに感じられていたから。
「先輩たち仲いいっすねぇ」
そんな俺たちを見た、一つ年下の小野寺翠 が冷やかしてくる。これもいつもの光景なのだけれど、「おい! そんなこと言ってないで、さっさと練習に戻れ」と少しだけ頬を赤らめながら、翠を叱る伊織を見ることも好きだった。
翠はバスケ部の次期部長と言われるくらいバスケが上手だ。伊織も背が高くて筋肉質だけれど、翠はそんな伊織よりも背が高くて細く締まった体つきをしている。
いつも人懐こい笑みを浮かべ、たくさんの友達に囲まれているイメージだ。翠の周りはいつも笑顔で溢れているような気がする。その場にいるだけで場を和ませるような、不思議な魅力を持っていた。勿論、女の子にだってモテる。
翠は伊織と正反対の魅力を持っているように感じられる。
でも……。
「伊織、ナイッシュー!」
「おう、サンキュ!」
伊織が放ったシュートは綺麗な弧を描き、まるで吸い込まれるようにゴールの中に入っていく。控え目だけれど、みんなから信頼されている人気者。本当なら、俺なんかと一緒にいる人物ではないのかもしれない。
だけど、俺は伊織の特別なんだ。
そう思うと、心の中がくすぐったくて、温かくなった。
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