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自慢の幼馴染②

 ふと隣に視線を移すと、一人の女の子が立っている。でもなぜか違和感を覚え視線を下げると、制服のズボンを履いていた。  あ、またやっちまった……。俺はいつも見間違えてしまうんだ。 「千颯(ちはや)。お疲れ。部活終わったの?」 「はい」 「そっか」  まるで女の子のような見た目をした少年が、俺に向かって微笑みかける。彼は翠と同級生の奥村千颯(おくむらちはや)。千颯がにっこり笑うと、両方の口の端にえくぼができてとても可愛らしい。  千颯は俺より背も低くて、華奢な体つきだ。色素の薄い髪は天然パーマなのだろう。クルクルと緩くカーブしている。幼い顔つきに、小動物のような雰囲気を持った男の子だった。 「今日も翠と一緒に帰るの?」 「はい。毎日一緒に帰るのが当たり前になってて」 「そっか。俺たちと一緒だな」 「ふふっ。そうみたいですね」  千颯は翠の幼馴染らしく、俺が伊織を待っているように、千颯は翠のことを待っている。千颯が翠を見つめる眼差しはいつもとても穏やかだった。  加えて、女子に混ざり華道部で活動しているなんて、俺とは別の世界に住んでいる存在のように感じられる。まるで妖精のような――。俺には千颯が透き通って見えた。 「……伊織先輩って、かっこいいですよね。あ、もちろん翠も凄くかっこいいけど。お二人は僕たちみたいに幼馴染なんですよね?」 「うん。幼稚園からの幼馴染なんだ」 「そっか……いいな、伊織先輩とずっと一緒にいられたなんて。羨ましいなぁ」 「ん? 千颯、今何か言った?」 「あ、いえ。何でもないです」  千颯の声が小さすぎて聞き取れなかった俺が彼の顔を覗き込んだけれど、千颯は顔を真っ赤にしながら俯いてしまった。そんな仕草をする彼はシャイで大人しくて、とても繊細に見える。 「早く終わるといいね」 「はい。早く終わるといいですね」  俺はいつも千颯と並んで、部活が終わるのを待っていた。

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