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自慢の幼馴染③

「碧音、待たせてごめんな」 「ううん、大丈夫だよ」  慌てたように俺に駆け寄ってくる伊織。そんな伊織も好きだ。汗で髪が額に張り付いて、煩わしそうに前髪を掻き上げる仕草だって本当にかっこいい。少しだけ待ちくたびれていたけれど、そんな思いもどこかに吹き飛んでしまった。 「翠もお疲れ様」 「あぁ! 千颯、待たせてごめんな」 「全然大丈夫。気にしないで。それより翠、おでこ怪我してるよ。ちょっと待って、今絆創膏出すから」 「え? 本当? 全然気が付かなかった」  そんな二人のやり取りがとても微笑ましくて、思わず頬が緩んでしまう。翠は俺たちのことを「仲がいい」ってからかったけど、翠と千颯だって十分仲がいい。  まぁ、俺たちには敵わないけど……なんて少しだけ対抗意識を感じてしまう。そんな自分に気付いた瞬間、頬が熱くなるのを感じた。 「千颯は優しいんだね」 「いえ、そんなこと……」 「前から思ってたんだけど、すごく気が利くし。そういうとこ、とってもいいと思うよ」 「そ、そんな。恥ずかしいです……。伊織先輩だって、とても誠実で優しいと思います」 「本当? 嬉しいなぁ。ありがとう」  伊織が千颯に向かって微笑むのを見た俺は、心の中がモヤモヤしてしまう。「どうせ俺は優しくないよ」なんて、唇を尖らせて拗ねてみせた。  でも、鈍感な伊織はそんな俺に気付くこともなく、「本当にいい子だよね」などと千颯を褒め続ける。そんな伊織の腹を、肘で突いた。いつまで褒めてんだよ……と、イライラしてきてしまったのだ。  顔を真っ赤にして照れている千颯がすごく可愛いことに、少しだけ焦りだって感じてしまう。  伊織は誰からも好かれるから、いつか誰かにとられてしまうんではないかという恐怖が、いつも俺を不安にさせる。 「じゃあ、また明日な。翠、遅くまでゲームなんかしてないで、早く寝るんだぞ」 「わかってますって。お疲れ様でした!」  翠が人懐こい笑みを浮かべて俺たちに向かって手を振る。正門まで四人で向かい、そこで別れるのがいつものパターンだ。  俺たちは駅がある右へ折れる道へ。翠たちはバス停がある逆の方へ。  ここで、ようやく俺は伊織を独り占めすることができるんだ。 「伊織、お腹減ったよね。何か食べてく?」 「あー、うんそうだね」 「何食べよっか? ハンバーガーかドーナツか……。うーん、悩むなぁ」  そんな中、伊織がそっと振り返ってふわりと微笑む。微笑んだ相手は俺ではなくて、その視線の先には千颯がいた。  二人が俺と翠に気付かれないよう、そっと手を振り合っていたことに、俺は全く気づかなかったんだ。  もしあの時気が付いていたら、未来が変わっていたかもしれない。  なんて今後悔しても、時間は戻ってくれないのだけれど……。

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