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自慢の幼馴染④
校庭に咲き乱れていた桜が一斉に散ったと思ったら、新緑が顔を出す季節となる。新葉が少しずつ強くなってきた日差しに照らされ、キラキラと輝いていた。
花々が咲き乱れる春もいいけれど、新緑の季節もまた魅力的な季節だと思う。校舎の中を吹き抜ける風だって、こんなにも爽やかだ。午前中ずっと座りっぱなしだった俺は、大きく伸びをして固まってしまった体を思いきり伸ばす。
気温も急に高くなって、教室の中も少し蒸し暑い。それでも衣替えはまだ先で、俺は制服のネクタイを緩めてブレザーの前ボタンを外す。教科書でパタパタと扇げば、生ぬるい風が吹いてきてホッと胸を撫で下ろした。
去年は伊織と同じクラスだったのに、今年は別々のクラスになってしまった。しかも俺は一組で、伊織は四組。教室が廊下の端と端だから、気軽に顔を見に行くこともできない。
俺はそれがすごく寂しかった。
高校生活の一大イベントである修学旅行は終わってしまったけれど、三年生だって卒業旅行だったり大きなイベントはぽつぽつとある。
そんな大切な一年を、伊織の傍で過ごせないことが、俺の心の中で棘のようにささくれてしまって、なかなかザラザラとした嫌な気持ちは抜けてくれない。
それでも、誰からも好かれる伊織はすぐに新しい友達ができたみたいで……。通りすがりに四組の教室を覗くと、伊織の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。新しいクラスメイトに囲まれて談笑する伊織は、俺の知らない顔をしているような気がして面白くない。
だからと言って、「俺以外の奴と仲良くしないで」なんて伊織に言えるはずなんかない。だって俺は、伊織の幼馴染ではあるけれど、恋人ではないのだから。
――高校を卒業するまでには告白しよう。
俺はそう決心しているのだけれど、なかなか行動に移せない。何度も「好きだ」と喉元まで言葉が出かかったが、それは言葉にはなってくれなかった。
伊織が男である俺を受け入れてくれるのかだってわからないし、幼い頃から兄弟みたいに育ってきた俺を、果たして恋愛対象としてみてくれることなんてあるのだろうか。
告白してフラれてしまったら、きっとこの関係は壊れてしまう……。そう思えば、簡単にこの想いを伝えることなんてできるはずはない。
だけど、そんな思いとは裏腹に、伊織を自分だけのものにしたいという独占欲や、恋人として触れてみたいという欲が日に日に強くなっていく。だって、俺だって健全な男子高校生だ。そういった欲が出てくるのも自然なことだと思う。
「伊織、好きだ。でも怖い……」
俺はそっと呟く。そんな弱虫の呟きは、生徒たちの笑い声と、授業開始を知らせるチャイムの音に掻き消されていった。
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