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残り物の僕たちは⑧

「俺、翠が進路の第一希望を翠のお嫁さんにしろって言ってたから、進路調査の第一希望だけ空欄で提出したんだ」 「空欄で? そんなことして、先生に怒られなかった?」 「怒られたよ。でも俺の第一希望は翠のお嫁さんだから。だから、俺は第二希望の専門学校に進学するんだ。だって、俺の第一希望は、いつか翠が叶えてくれるだろう?」  俺の言葉を聞いた翠の顔が夕焼けみたいに赤くなる。一瞬泣きそうな顔をした後、いつものように笑った。 「絶対叶えてみせる! 碧音が好き。大好き!」 「うん、俺も翠が好きだよ」  嬉しそうに微笑んだ翠が俺の前髪を掻き分けて、額に優しいキスをくれる。それからそっと瞳を閉じた。  少しずつ近付いてくる翠の顔。俺は恥ずかしくてギュッと目を閉じる。翠の吐息が顔にかかって擽ったい……。  俺が期待に睫毛を震わせると、唇に温かくて柔らかいものが触れた。 「ん、はぁ……」  思わず零れる甘い吐息。心臓がうるさいくらい鳴り響いているけれど、俺は翠の体を引き寄せて自分からもう一度唇を重ねた。  甘くて柔らかい翠の唇。俺はその柔らかな唇を頬張った。 「気持ちいい……」  うっとりと翠を見つめると「可愛いね」と、艶っぽい声で耳打ちをされる。俺の体はどんどん火照っていった。  その言葉が嬉しくて、俺の目からは涙が溢れ出す。俺は泣いているのに、そんな俺を見て「やっぱり可愛い」と翠が笑っていた。  翠に唇を奪われると苦しくて「はぁ……」と大きく息を吸いこむ。それでもキスを止めてくれなくて、重なる唇の隙間から俺の涙が溶け込んで……甘いキスのはずが塩辛い。  俺、すごく幸せだ――。 「ねぇ、翠。残り物でも美味しく食べてくれる?」 「何言ってんの? 碧音は残り物じゃなくて、俺のメインディッシュだよ」 「馬鹿……」  二人で照れくさそうに顔を見合わせてから、俺たちはもう一度キスを交わした。 【END】

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