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プロローグ〜もうひとつの「生徒指導室」〜
僕が通う聖条台学園高校には、二つの「生徒指導室」がある。
聖条台学園高校は、X市の西の外れにある私立の男子校だ。
となりのY市とを隔てる小高い山の中腹に敷地を広げて、校舎や体育館を構えている。
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校門を入ってすぐ目の前には、三階建てのA棟校舎が構えられている。
この校舎の二階の端に、第一の「生徒指導室」がある。
この生徒指導室では、校則に違反したり素行に問題のある生徒が、生徒指導を担当する先生から適切な指導を受ける。
もう一つの「生徒指導室」は、グラウンドの北の端に横たわる屋外プールと、その背後に迫る雑木林の隙間でひっそりと佇んでいる。
かつて「体育倉庫」として使われていた建物の廃墟だ。
♫ ♫ ♫
その建物は横に細長くて、僕の歩幅で数えて横幅は十歩、奥行きは五歩くらいだ。
四方の壁は灰色のブロックを積み重ねて拵えられ、そこにスレートの屋根が載せられている。
床はコンクリートが剥き出しで、天井はない。
至って単純な造りの倉庫だった。
正面にある引き戸は、普段は施錠されている。
その引き戸を開けてみると、左半分には高跳び用マットが横たわっている。
右の壁際には、十台足らずのハードルが置かれている。
どちらも、もう使用に耐えられなくなって、いつか処分される時を待っている“粗大ゴミ”だった。
♫ ♫ ♫
もっとも、この学校には生徒指導を担当する先生が三人いるけど、この体育倉庫を「生徒指導室」として利用しているのは、浅井先生だけだ。
この廃墟が「生徒指導室」であることを知っている生徒も、実はほとんどいないだろう。
もしかしたら、そこに廃墟があることを知らない生徒だって、少なくないかもしれない。
僕だって、浅井先生に連れて行かれるまでは、そこが「生徒指導室」であることは知らなかった……。
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