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いじめられっ子は美少年①

「先生、お願いです……お願いだから、浣腸は許してください……?」  突き出したお尻をガクガクと震わせながら、僕は壊れたレコードプレーヤーのように、同じ台詞を繰り返す。 「か、浣腸は、許して……浣腸は、許してください……? お願いですから……?」  だけど、浅井先生は取り合ってくれない。  恐怖に顔を歪める僕を、ニヤニヤ笑って見下ろすだけだ。  悠馬先輩と怜央先輩も、先生と同じだった。  二人は、僕を両側から挟むように立っている。  浅井先生を見倣っているのか、先生のやることに口を挟むのが躊躇われるのか、ずっと沈黙を保っている。  もっとも、少なくともこの頃の二人はまだ、その顔には困惑の表情が漂っていた。  浅井先生のやろうとしていることに、追いつけていない感じだった。             ☆☆☆☆☆    二学期が始まって半月ほどが過ぎた。  九月も半ばを過ぎたある日の放課後――。  今、僕は二つ目の「生徒指導室」である、グラウンドの片隅にある体育倉庫の廃墟にいる。         ♫ ♫ ♫  高跳び用マットの右の傍らに、二台のハードルが平行に並べられている。  そのハードルの間に、全裸の僕は体の正面を奥の壁に、背中を引き戸に向けるようにして立っている。  両手は“後ろ手”にされて、重ねられた手首は、あちこちが毛羽立った古い黄土色のロープで、幾重にも縛りつけられている。  両足の太股は、同じく黄土色のロープで、ハードルの支柱に括りつけられている。  お尻の下には、ブリキのバケツが置かれている。  その底は、白い液体で満たされている。  グリセリンと牛乳を混ぜた「浣腸液」だ。  バケツには灯油ポンプが差し込まれ、吸込口は浣腸液の中に、そしてホースの先端にある吐出口は、僕のお尻の穴に刺さっている。  この灯油ポンプが、これから「浣腸器」の役目を果たすようだった。         ♫ ♫ ♫  僕から見て左側にある高跳び用マットの上には、もうひとつブリキのバケツがある。  浅井先生が持ってきたバケツだ。    ハードルに拘束されている僕には、その中を覗き込むことはできないけれど、これから僕をいじめるための“責め具”が収められているみたいだった。           ♫ ♫ ♫  浅井先生は黒いビキニパンツ姿で、ハードルに拘束された僕の前に仁王立ちして、腕を組んでいる。  浅黒い肌で覆われた屈強な肉体と、短髪の下にある“強面”が相俟って、先生は一見するとボクサーのようにも見える。  その迫力に満ちた風采に似つかわしく、普段の言動も乱暴で、気に入らない生徒には体罰も厭わない。    この高校の生徒の間で「暴力教師」として悪名を轟かせている、二十九歳の体育教師だ。          ♫ ♫ ♫  二人の先輩は、白い半袖のカッターシャツに、オリーブグリーンのスラックスという制服姿で、僕の両側に立っている。    左側にいるのが悠馬先輩、右側にいるのが怜央先輩だ。         ☆☆☆☆☆  僕は先生を見上げて、涙を流しながら哀願を繰り返す。 「か、浣腸は許して……浣腸は、許してください……」  そのとき、長く無視を決め込んでいた浅井先生が、ようやく口を開いた。 「なあ伊織……念のため、もう一度聞くぞ……?」  冷ややかな目で僕を見返して、浅井先生は聞いた。 「お前は、悠馬と怜央にいじめられているのか?」 「いいえッ!?」     僕は勢いよく首を横に振った。 「僕は、いじめられていませんッ!?」  いじめの事実を即座に否定したのは、それこそが浅井先生の望んでいる“模範解答”だと思ったからだ。          ♫ ♫ ♫  今年の春にこの高校に入学して間もなく、僕は二人の二年生に目を付けられた。  悠馬先輩と、怜央先輩だ。  以来、ずっと二人からいじめられていたけど、先日とうとう耐えられなくなって、僕はいじめ被害を浅井先生に訴えた。  だけど、改めて考えてみると、生徒指導を担当する先生にとっては、きっと「いじめ」というのは厄介で、面倒な問題だろう。  だから、いじめの事実を否定すれば、きっと先生だって満足してくれる。  浣腸だって、許してもらえる――――そう思った。  だけど浅井先生は、僕が思っているほど甘くなかった。          ♫ ♫ ♫ 「ということは、お前は俺に嘘をついたんだな?」 「え……?」  僕は返答に窮した。  先生の言う通り、訴えを取り下げれば、僕は嘘をついたことになる。  かといって、今また“いじめ”の事実を認める訳にもいかない。  困惑しているうちに、先生が言い放った。 「教師に嘘をつくなんて、言語道断だ……?」 「そ、そんな……?」 「だから、これからお前を“お仕置き”する……?」  毅然とした先生の態度には、浣腸を実行する決意が揺らいでいないことを、まざまざと僕に見せつけていた。

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