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第4話
広間に通されると、まず目に入ったのは玉座に座るフェルカリアの国王だった。
その隣には、凛とした雰囲気を纏った青年が控えている。
「ようこそ。遠方よりのご足労、感謝いたします」
王の低く重厚な声が響き、カイゼルは礼を返す。
「貴国の温かい迎えに、礼を。ルイゼン国王、カイゼル・ヴァルゼインです」
続いて、王の横に控えていた青年が一歩前に出た。
「ルーヴェンと申します。父に代わり、政を担っております。陛下とお会いできたこと、光栄に存じます」
確かに、よく整った顔立ちに気品ある物腰。
これがフェルカリアの皇太子、ルーヴェン。
しかし──
先ほど、あの塀の向こうで見た、金の髪を持つ青年の姿が脳裏に過る。
……やはり、あれは王子だったのでは?
自然な流れで問いかける。
「ところで、──貴国には、もう一人王子殿下がいらっしゃるとか。お姿は?」
その問いに、一瞬、空気が止まったような感覚があった。
宰相が、王の目を盗むようにちらと視線を送る。
応えたのは、王本人ではなく、ルーヴェンだった。
「……弟は、体調を崩しており、療養中です。残念ながら、こうした場に出ることは難しいのです」
「そうですか」
口元に笑みを浮かべながらも、カイゼルの中で何かが引っかかったままだった。
あの儚げな佇まい。
風に揺れていた、白金の髪。
そして、何より──あの瞳は、生きることを諦めかけた者の目だった。
療養。
本当に、それだけなのか。
視線を戻し、礼儀正しく話を進める。
同盟に関する話し合いは始まったばかり。だが、カイゼルの心は、別のところに囚われていた。
──ノアリスという名の王子に。
「──つきましては、同盟を結びたいという貴国の意見を、お聞き願えますか」
イリエントの発言に、ようやく話し合いに意識を戻したカイゼルは、皇太子が口を開いたのを静かに聞いた。
「私共の国は、医療ではきっと、どの国にも負けないでしょう。しかしながら、武力ではどうも。そこで、貴国と同盟を結びたいと考えた次第です」
「……我が国へのメリットは?」
「ええ。医療の知識と、その技術を」
「なるほど」
カイゼルは暫く悩み、そうしてイリエントに目配せした。
「それは私共としても大変有難いご提案です。──ところで、噂を耳にしました。どんな病気やケガにも効く、万能薬があると」
「……」
イリエントの言葉に、皇太子の表情が一瞬固まったのを、カイゼルは見逃さなかった。
「その万能薬を、譲ってはいただけませぬか?」
「──できません。あれは、国家の秘宝ですので」
カイゼルの眉がわずかに動く。隣でイリエントも顔を曇らせた。
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