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第6話

 用意された客間で、カイゼルはイリエントと考えていた。  それはもちろん、同盟のことでだ。 「万能薬を渡さずして、この会談が上手くいくと思っているのか」 「我々が何も知らないと思っていたのでしょう」 「……王子の事も気になる。──おそらく、俺が見たのはノアリス王子だ」 「ああ……門のすぐ側で見たという……?」  渡せない万能薬──卵  療養中だと言って会うことの叶わない王子  もしかすると、卵の秘密は王子にあるのでは……?  カイゼルはじっとイリエントを見つめた。 「何でしょうか。そのように見つめられては流石の私も怖くなってしまいます」 「……王子について調べろ」 「は? 何故、そこまで王子にこだわるのですか」 「──あの王子が、卵の正体そのものだとしたら?」 「! ……ですが、それは……見つかってしまっては、同盟の話は全て流れてしまうかもしれませんよ……?」  イリエントの言葉に、カイゼルは眉を寄せる。 「──それがどうした。ならば、こちらも手段を選ばぬまでだ」 「と、いいますと……?」 「この国に攻め込むだけよ。武力では我らの方が上。戦に勝てばこの国も俺のものになる」 「……もう、何を言っても聞く気はなさそうですね」  少し呆れた様子の側近は、それでも「わかりました」と言い、静かに部屋を出ていった。  カイゼルはあの金の姿を思い浮かべる。  とても悲しそうだった。  何もかもを諦めているように見えた。  もしも──本当にあの青年が王子だとしたら。 「……王子が、あのような表情をしていては、国の未来が危ういな」  逃げ出したいような、それでいて逃げられないような。    それならば、手を貸してやろう。  そう思えるほどに、儚い存在のように見えた。  しかし、たしかに。  イリエントの言うように、どうしてここまで王子にこだわるのかはわからなかった。  万能薬──卵の存在は気になるのだが、それよりも頭に浮かぶのはあの青年なのだ。 「……あそこ行けば、会えるのか……?」  一度彼を見たあの場所。  思い立ったら即行動を地で行くカイゼルは、客間から出ると躊躇うことなく、あの場所──庭に向かった。

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