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第7話

 カイゼルは庭に訪れていた。  日も暮れ、灯された頼りない火の光が影を揺らしている。  美しい草木にホッとどこか心が安らいでいく。  ここで、あの青年は何をしていたのだろうか。  カイゼルは彼を想像しながら、庭を歩き、ふと顔を上げた。  城は高くそびえ立っている。  豪華な作りは、国の象徴と言えよう。  そんな象徴のすぐそばで、孤立したような塔があった。  あそこは、何だろうか。  塔は無骨な石で造られており、窓らしいものも見えない。  ただ、最上部にだけ、小さな格子が見えた。  監視する為のものであるならば、いささか背が低い気がする。    ジーッと眺めながら考えていたのだが、しかし思い浮かばない。 「そこの者、あの塔には何がある」  カイゼルについて歩いていたフェルカリアの女官は、小さく肩を跳ねさせた後、静かに頭を下げた。 「あちらはただの物置となっております」 「……塔が、ただの物置?」 「はい。その通りでございます」 「それは、おかしい」  カイゼルは女官に近づき、じっと見下ろした。 「宗教目的や、展望の為、それから……水を汲んでいるなどの理由ならわかる。もしくは『わからない』であれば見逃してやっただろうな」 「……」 「ただの物置の為に、塔があると思うのか? それに俺が納得すると思うか?」  女官は小さく震えている。  カイゼルは至極真っ当なことを言っているつもりで、脅かしているわけではないのだが、その高い身長と言葉の威圧感が大きく、女官は『殺されるかもしれない』と顔を青くしていた。 「──カイゼル陛下! もう! ここにいた!」  重たい空気が晴れる。  イリエントが疲れた顔をして駆けてきていた。 「ああ、イリエント」 「勝手に出歩かないでくださいよ。探しましたよ」 「良かったな。見つかって」 「……何をしているのです。女官の顔が真っ青ですよ」 「さあ。おかしなことを言うので、おかしいと指摘しただけだ」 「可哀想に……。もう、下がってなさい」  女官は心の底から安堵してササッと下がって行った。  庭には、カイゼルとイリエントのふたりだけになる。 「それで、何がおかしいのです?」 「あの塔だ。監視をするには低すぎる。だからあれは何だと聞いた」 「……なんと答えたのですか」 「物置だと。ハッ、笑わせる」  カイゼルは無表情で塔を見上げた。  その横顔を眺めるイリエントは、小さな声で呟く。 「王子の住まいだそうです」 「──は?」 「あそこに、囚われているとのこと」  イリエントは静かに目を伏せる。  あのような、決して広くはないであろう塔に、王子が──? 「月に一度だけ、出ることを許されているとか。本日陛下がお姿を見たのなら、次はちょうど一ヶ月後になりそうですね」 「……」  だからか、と思った。  だから、逃げ出したいのかと。  囚われて、自由のない王子など──見過ごせるはずがない。

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