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第8話

「もっと、詳しく調べさせろ。食事のこともだ。外から持ってくるのか、中で調理をしているのか……。女官の出入りはあるのか、全て、徹底的にだ」 「ど、どうされたのです。まさかではありますが……侵入するおつもりで……!?」  カイゼルはニッと笑う。  塔に囚われている王子を救うだなんて、それこそ御伽噺のようだ。 「ああ。アレを取引材料にしよう」 「アレ……?」 「王子だ。王子を、我が国に連れ帰る」 「なっ──!」  驚くイリエントを、カイゼルは笑顔のまま見下ろした。 「万能薬とは関係ないのなら、構わないだろう。よくある話だ。政略結婚なんて」 「結婚!?」 「なんだ。結婚して何が悪い。美しい王子だった」 「いや、王子ですよ? 王子ということは、男です! 世継ぎはいかがなさるつもりで……!?」 「どうとでもなる」 「へ、陛下ぁ……」  ヘナヘナと力なくカイゼルの足に縋るように座り込んだイリエントだが、しかし、カイゼルは心に決めてしまった。 「名前は、なんというんだったか」 「うぅ……ノアリス様です……」 「ノアリスか。神秘的な名前だな」 「ええ、そうですね。ですが、男です」 「執拗いぞ。俺が欲しいと思ったものに、性別は関係ない」  カイゼルは塔を見上げた。  あの美しい王子を、どうやってあそこから連れ出そうか。   「いつから、あの塔にいるのだろうな。幼い頃からならまだしも、外の楽しさを知った後に囚われたのなら、それは……俺には考えられないほど、くるしいはずだ」 「……それも、調べておきます」 「ああ。……可哀想にな」  必ず、あの悲しげで諦めた表情を希望に溢れるものにしてやろう。  カイゼルはそう決意し、踵を返し客間に戻った。

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