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第22話

 受け渡しは十日後に決定し、面会のタイミングについては王子の体調の良い時にということで、会談を終えた。  しかし、客間に戻るカイゼルとイリエントは、決して晴れやかな顔をしていなかった。   「──どう思う」    部屋につき、ソファーにドサッと座ったカイゼルは、イリエントに問う。 「ええ。ひとまず、この交渉が上手くいくようにということなのでしょうね」 「だろうな。……しかし、ここまで渋ったのにも関わらず、呆気なさすぎる。……もしや、偽物を渡すつもりでは無いのか?」 「可能性はありますね。なぜなら、彼らは陛下がノアリス王子のお顔を見たことがあると知らないはず。例え四年前にお顔を見ていたとしても、病によって憔悴し、表情が乏しくなったとでも言えば、こちらは何も言えないと思っているでしょう」  明らかに『違う』と分かっていても、公の場で否定する事は、フェルカリアの王族を否定することと同意と見なされてしまいかねない。 「……顔だけでなく、話し方や、癖で気づけることもある」 「それでも、口に出せないかもしれません。ですが、こちらに引き渡された後であれば、誰に咎められることもない」  イリエントは紅茶をひと口飲み、言葉をつなぐ。 「どちらにせよ、我々には”受け渡しの瞬間”より、その“後”が肝心です」 「……用心に越したことはない。どんな形であれ、ノアリス王子を保護する。それが第一だ」    二人は言葉少なに頷き合い、静かに作戦を練り始める。    ──その頃、誰とも会うことのない王子の部屋では、別の緊張が漂い始めていた。

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