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第23話 ※

◇  静かな塔の中。  ノアリスの周りではここ最近、不思議なことが起こっていた。  ある時は食事を持ってくる女官がいつもの人間とは違うかったり、見たことの無い紙が転がっていたことに気づき、開けてみれば、そこには優しい言葉が並べられていたり。  バレてはいけないので、その紙は火をくべて燃やしたが、それでも心の中がホッコリするような、あたたかい言葉だった。 「……ふふ」  ──ここから、必ず出してやる。苦しむことはもうない。君は空をも飛べるようになる  そんな、夢物語のような言葉は、しかしノアリスを癒した。  ──カイゼル陛下だ。  彼は夢を見させてくれる。  太陽の下を、思うように走り回りたい。  四季を肌で感じたい。  痛みも、苦しみもない、穏やかな世界を、再び歩みたい。  カイゼル陛下がもしも、本当に迎えに来てくれたのなら。  彼がここから解放してくれるのなら。  ノアリスが頬を緩めた、その時だった。  ガチャっと大きな音を立てて、扉が開く。  目を向ければそこには兄がいて、仄暗い瞳がノアリスを射抜いていた。 「ノアリス、お前をルイゼンに受け渡すことになった」 「──!?」 「まあ、そのうちお前を取り戻すさ。全く、問題はない。……しかし、それまでの間に我らに何かがあっては困るからな。十日間の猶予がある。卵を産んでいけ」 「ひっ──」  兄の後ろに控えていた侍従達が「失礼します」と言い、ノアリスの体をベッドに押さえつけた。  抵抗することも出来ずに、衣を脱がされていく。  大きな瞳は涙に濡れ、奥の秘所を香油で濡らされたかと思うと、無遠慮に指が差し込まれた。 「ん゛ぅっ!」 「最近はルイゼンのせいで疎かになっていたから、かなりきついな」 「あ゛ぁっ、ぃ、たぁ……っ」 「時間が無い。──口を塞げ。そして、抑えていろ」  開かされた足と、頭上で一纏めにされた手を、それぞれ男たちに抑えられる。  口には布が詰め込まれ、ノアリスは恐怖に身体を震わせた。 「騒げばもっと酷くする」 「んっ」 「力を抜いてろ」 「……っ、ふ……──んぐぅぅぅ……ッ!」  灼熱に貫かれる。  痛みで目の前が白く霞む。  愛情を深めるための行為は、ノアリスにとって酷く惨いものだ。  全てが終わる頃には、ノアリスは意識を失っていた。  医者が裂傷の処置をして、そうして皆が去っていく。  男の匂いが充満している。  ノアリスの閉じられた瞼からは、涙がこぼれ落ちていた。

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