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第158話 ※
たったの三日でノアリスの腹の中には卵ができて、彼は苦しそうにしていた。
腹が張るから食事はままならず、彼の手から与えられるフルーツで水分をも補給する。
「ノアリス、痛みはないか? 手足を揉んでおこう。浮腫むと辛いだろうから」
「ぁ……大丈夫です。大丈夫……」
眠たいのか、それとも脳が嫌な記憶を忘れさせるために強制的に眠らせようとしているのか、いつでも微睡みの中にいる様子。
カイゼルは医師を呼び、ノアリスの眠っている間に体の具合を確認させ、しかし、卵に関しては詳しくない彼はそれ以外の体調は問題がないと判断していた。
それが数日続き、六日目の朝、ノアリスが目を見開き体を丸くしてベッドの上でのたうち回っていた。
「いた、痛い、痛い……!」
その言葉を繰り返す様子に、恐らく時が来たのだとカイゼルは医師を呼び、産卵しやすいようノアリスの体を抱きしめ、膝立ちにさせた。
「ノアリス、俺にならいくらでも何をしてくれて構わない」
「うぅ〜ッ、カイゼル様……っ」
首にしがみついてくるノアリスは、ゆっくりと、卵がおりていく感覚を感じていた。
痛い、痛いけれど、産まなきゃ終わらない。
そうして医師の言うタイミングで強く息むと、ある時フッと、体が楽になり、一気に脱力すれば、カイゼルに全身を預けて意識を飛ばした。
カイゼルは大切にノアリスを抱きとめたあと、チラッと卵に視線をやる。
白いそれは、光の轟く様子はない。
しかし、よくぞ産んでくれた。そっとベッドに寝かせると医師が後処理を進めていく。
「裂傷はありませんが、かなり苦しかったでしょう。ここも傷んでおりますから、薬を塗るように。先に汗をかいてお疲れでしょうから、お身体を拭い、洗髪をして差し上げた方がよろしいかと」
「ああ、わかった」
グッタリしているノアリスを、医師と言う通り綺麗に調えた。
きっと彼はガッカリするだろう。目を覚まし、卵を見て、悲しむはずだ。
傍らにある卵には、光の轟は一切ない。これにはきっと、命は宿っていない。
そっと金色の前髪を退けて、額にキスをすると、ゆっくり目を開けたノアリスが、掠れた声でカイゼルを呼んだ。
「……たまご、は……?」
「……ああ。無事に生まれた。しかし……」
カイゼルの表情と言葉で察したノアリスは、少し寂しげにフッと笑う。
「……そう、ですか。……そう簡単に、いくとは、思っていませんでしたから、大丈夫、です」
「っ、」
ノアリスの言葉に、涙をしたのはカイゼルの方だった。
自身のせいで、ノアリスに要らぬ苦痛を与えている。それが申し訳なくて、仕方がないのだ。
「カイゼル様、泣かないで……」
触れてきた折れそうなほど細い手。
ベッドのすぐ傍に膝をつき、ノアリスの頭を抱きしめながら泣くカイゼルは、こんな苦痛をもう一度与えるなんてこと、自分からは決してできなかった。
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