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第159話

 ノアリスは一度、卵を抱きたいと言った。  これまで産んですぐに奪われてきたそれに、一度は触れてみたいらしい。  カイゼルは決して落とさないようにまだ直径十二センチ程の卵を両手で運び、ノアリスの手に乗せる。 「……卵は、こんなものなのですね……」  そう言ってポロッと涙を零したノアリスに、カイゼルの胸が締め付けられる。 「わ、私が、産んだんだ……カイゼル様との、卵……」 「っ、」 「生きていて、ほしかった」  つい、本音が漏れて、ノアリスはそれを抱きしめると、優しく口付ける。  涙がいくつも溢れてはその卵に降り注がれ、そして──ドクンと、一度大きく卵が光った。 「 ──え、」 「い、ま……光った、のか……?」  一度光を見せたそれは、そのまま、まるで鼓動を刻むように発光する。  顔を見合せた二人は、体裁なんて何ひとつ気にもせず、声を上げて泣いた。  その声は、部屋の外にも響いており、静かに状況を見守っていたイリエントとコンラッドも同じく涙を流す。 「さて、これから仕事がさらに増えますよ。覚悟なさい、コンラッド」 「ええ、イリエント様も」  そんな会話があったことを、部屋の中で泣きながら抱き合うふたりは知らない。  大切に大切に、光る卵をフワフワなタオルを敷き詰めた籠に入れて、落として割ることのないよう、低い場所にそっと置く。 「ノアリス」 「はい──んむっ!」  口付けを交わしながら、カイゼルは優しくノアリスを抱きしめた。  卵のことは何も分からない。これからどう成長し、どうやって人が生まれるのか、何もかも。  しかしなにもりも、今、願っていた瞬間が愛しい人との間に訪れたことが、何よりも嬉しく幸せで。 「んっ、は……カイゼル、さま……っん!」 「は……好きだ。愛してる……」 「んぅぅ」  止まない口付けに、ノアリスは笑う。  あの塔に閉じ込められ、無理矢理産まされていた時のことなんて、まるで無かったかのように、屈託なく。  愛しくて愛しくて、たまらない。  二人の間には今、ただそれだけしかなかった。   第四章 了

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