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第160話

第五章 「ナディエル様! ナディエル様! どちらにいらっしゃるのです!」  城内は毎日が賑やかだった。  窓際にあるカイゼルの机、その椅子に座るカイゼルに抱きしめられながらうつらうつらしていたノアリスは、大きなその声が聞こえてきて目を開ける。 「陛下……ナディが、また……?」 「そのようだな」  苦笑したカイゼルは、唐突に部屋の扉が開いたのを見て、ノアリスに目配せをし、口の前で人差し指を立てた。  ノアリスはクスクス笑い頷くと、腕を組んでむんずとした態度を作る。  そして少しして、その瞬間── 「ばあっ!」 「!」  飛び出してきたのは、小さな少年。  金色の髪とエメラルドグリーンの瞳を持つ、天使のような愛しい子。  分かっていたはずなのに驚いたノアリスは、声を上げそうになったのを堪え、むんずとした態度のまま頬を僅かに膨らませた。 「ナディエル、皆を困らせてはいけないと、母は言いましたよ」 「ひひっ! 母上、ビックリしてた! ナディに驚いたでしょ!」 「ナディ〜!」      彼の名前はナディエル。ナディエル・ヴァルゼイン。  正真正銘、カイゼルとノアリスと子供──第一王子である。  ひひひ、と笑う三歳の息子をカイゼルは涼しい顔をして見下ろす。 「ナディ、なぜ皆がそなたを探している?」 「あぅ……」 「今は何をする時間だ?」 「……おべんきょ」 「そうだ。それなのに、どうしてここにいる?」  少し怖くもある問い掛け。  ナディエルはギュッと服の裾を掴むと、キラキラに輝く大きな目で二人を見上げる。 「……だって、父上と、母上に、会いたかったぁ」 「……。ならば仕方ないな! 父と母と遊ぼう」 「あっ、カイゼル様……!」 「……仕方があるまい。見てみろ、ナディはノアリスにそっくりだ。その顔で会いたかったなどと言われて叱れるほど、俺はまだ父になれていない……」 「……それは私もです……」  息子に完全敗北した両親は、椅子から立ち上がると、カイゼルがナディエルを抱き上げて、頬を寄せる。 「何をしようか。ナディの好きなことはなんだ?」 「ナディは、母上と、父上が、好き!」 「は……なんと愛しい……」 「可愛い子。母にも抱っこさせてくださいな」  そうしてくふくふと穏やかな時間を過ごして居たのだけれど──  コンコン、と扉がノックされる。  返事をすれば鬼の宰相・イリエントがやって来た。 「陛下、王妃様、そして──王子様。何をなさっているのです」 「……いや」 「……えっ、と……」 「……父上と母上と遊んでいた!」  ノアリスは咄嗟にお喋りなナディエルの口を手で押さえようとしたが、一足遅かった。 「ほう。遊んでいたと。おかしいですね、王子様はこの時間、お勉強をされているはずですのに」 「……あ、」 「そして陛下と王妃様は政務を行っているはずでは?」 「……」 「……」  もう誰も、何も言えなかった。  ナディエルはイリエントの後ろにいた教師に連れられ、部屋に戻っていく。  カイゼルは椅子に座り、ノアリスは当たり前のようにそんなカイゼルの膝に座り、イリエントに見下ろされている。

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